みなさん、腸炎という単語を聞いたことがあるかと思います。消化器官、とくに小腸や大腸に炎症が発生し、お腹が痛くなってしまったり、下痢や血便が生じてしまいます。
感染することで生じる腸炎としては、ウイルス性のものと細菌性のものがあります。細菌性の腸炎の場合は、夏場に見られるケースが多く、食中毒として認知されています。
今回は、細菌性腸炎が生じてしまう原因と、その対策についてご紹介したいと思います。
細菌性腸炎の原因
まずは、細菌性腸炎がどのような原因で生じるのかを説明します。
食事からの細菌感染
多くの細菌性腸炎の原因として挙げられるのが、細菌に侵された食べ物を食べた際に感染するケースです。この場合、細菌を体内に入ってきてから発症するまでは個人差があり、5時間後に発症する人もいれば、2,3日経過してから発症する人もいます。
また、細菌性腸炎は、消化器官が細菌を駆除しきれずに生じますので、免疫力の高さによって、重篤度が異なります。免疫力が高い大人の場合、腹痛や下痢をしても軽症となったり、細菌を駆除できてしまい、細菌性腸炎を発症しない場合があります。
しかし、免疫力がまだ備わっていない子供や、免疫力が低下したご高齢の方、大人であってもストレスや食生活等の理由で免疫力が低下している方の場合、重篤化してしまう恐れがあります。最悪の場合死にいたる恐ろしい病ですので、注意が必要です。
細菌性腸炎の主な症状
では、細菌性腸炎になってしまうと、どのような症状が生じるのかを説明します。
発熱・嘔吐
細菌性腸炎は、体内に侵入した細菌を駆除するために生じます。そのため、体内に侵入した細菌を駆除しようと、体温を急激に上げることになるので、発熱を伴います。また、体内に入った細菌を体外に出すために、防衛反応として嘔吐をすることもあります。
感染症にかかると、体内の免疫細胞である白血球やマクロファージが活性化し、体内に入った細菌を駆除しようとします。この免疫細胞が活発になる際、体内ではサイトカインという物質が生成されます。サイトカインは、体の体温を上昇させる作用を及ぼすので、細菌に感染すると、体温が上がってしまうのです。
体温が上がることによって、細菌の活動が弱まり、免疫細胞の活動が活発になるので、細菌の駆除に役立つのですが、体温が急上昇するため、体力のない子供やご高齢の方は、体温上昇に耐えられなくなってしまう恐れがあります。
また、細菌は体にとっての異物ですから、これを排除する機能が嘔吐として表れます。しかし、嘔吐が繰り返されてしまうと、脱水症状といった障害を生じさせてしまうので、注意が必要です。
下痢・腹痛
細菌性腸炎の症状としては、発熱嘔吐のほかに、下痢・腹痛が伴うことが代表的です。下痢は、嘔吐と同様、体内に侵入した異物である細菌を排出するために生じます。そのため、下痢は正常な体の防衛反応であるのですが、これが続くと、嘔吐の場合と同様、脱水症状等を生じさせます。また、防衛反応を優先させるため、十分な栄養が体にまわらなくなってしまうので、体が弱ってしまう恐れがあります。
また、腹痛は、体内の免疫細胞と細菌が格闘している最中に生じるので、体の細菌が排除されるまでは継続するものと考えられます。
この激しい下痢・腹痛は細菌に感染して1日から4日の期間継続します。しかし、下痢や腹痛は、細菌を排除するための防衛反応であるため、これをとめてしまうと細菌を排除できず、体に悪いため、医療機関において、下痢止め等が処方されない場合が多いです。
しかし、これも程度問題で、下痢・腹痛が激しい場合は、訴の痛みに耐えられなくなってしまうので、下痢止め等が処方されることがあります。
また、冬場でこのような症状が出る場合は、細菌性腸炎でなく、ウイルス性腸炎である恐れがあり、別の治療が必要となります。ですので、下痢・腹痛が続く場合は、医療機関での診察を受けることをお勧めします。
血便
細菌性腸炎においては、血便が生じる場合があります。
これは、細菌が腸内に感染し、炎症が起きると、腸内がただれた状態になってしまいます。そのため、ただれた腸内から出血してしまい、その血液が便と一緒に排泄されるために生じます。
ですが、血便の場合は、腸にできたポリープ等の別の理由で生じることがあるので、安易な判断は避け、医者に診てもらいましょう。
筋肉痛・悪寒
上で紹介したように、体内に細菌が侵入した場合、細菌を駆除するために免疫細胞が活発化し、その際に発熱を伴います。そして、発熱とともに、悪寒を感じることもしばしばあります。
一般に、人間の体温は35度から37度までが平熱とされています。しかし、細菌が体内に侵入し、免疫細胞が活発化すると、細菌を弱らせるため体温を上昇させます。その際は38度以上の熱を伴うのですが、平熱の際の体感温度と、体温上昇時の体感温度が異なるため、熱が出ると悪寒が伴うのです。
また、体温を上昇させるには、筋肉を収縮させて、熱を生み出すことが必要となります。そのため、体温上昇の際は、全身の筋肉が収縮することとなるので、体が極度の緊張状態となり、筋肉痛を伴います。
神経障害・呼吸障害
また、細菌性腸炎の症状としては、神経障害や呼吸障害を生じさせる場合があります。細菌には様々な種類があるのですが、神経障害や呼吸障害を生じさせる細菌としては、ボツリヌス菌が挙げられます。
ボツリヌス菌の感染経路の代表とされるのは、ちみつとされます。そして、ボツリヌス菌は、免疫力の弱い乳幼児が感染する恐れが高いため、はちみつを食べさせないようにすることをお勧めします。
ボツリヌス菌に含まれる毒素は、体内に侵入すると腸の中で増殖を始め、中枢神経等に影響を与え、麻痺を引き起こします。中枢神経が麻痺をすると、筋肉が緩んだ状態になってしまい、自分の意思で筋肉を動かせなくなってしまう恐れがあります。
また、呼吸も呼吸筋によってなされるのですが、呼吸筋が緩んでしまうと呼吸が上手くできず、呼吸障害を生じさせ、最悪の場合には死にいたってしまいます。ですから、医療機関での早急な処置が勝負となります。
細菌性腸炎の対策
では、細菌性腸炎にならないための対策、なった場合の処置について説明します。
食べ物に注意する
細菌が最も繁殖しやすいのは高温多湿の環境です。そのため、食材を冷蔵庫に入れ忘れた場合、賞味期限が切れていなくても細菌が繁殖しているおそれがあります。
ですから、スーパーで肉や魚といった生ものを買った場合で、自宅まで距離のある方は、細菌の繁殖を抑えるための対策を講じてください。スーパー等の店舗で異なると思いますが、多くのスーパーでは、氷が無料でもらえるので、氷をスーパーの袋に入れ、食材の温度を低く保つよう努めてください。
そのため、食材は冷蔵庫に絶対入れるようにしましょう。ただし、冷蔵保存をしていても、食材に菌が付着していた場合は、増殖が進んでしまいます。そして、賞味期限が切れると、細菌の繁殖量が増加しますので、賞味期限を気にかけるようにしてください。
調理の際の衛生管理
細菌性腸炎の原因は、細菌に侵された食材を摂取することです。そして、人間の手には、多くの細菌が付着していますので、食事を作る前には必ず手洗いをすることをお勧めします。
また、包丁やまな板には、食材に付着した細菌が残り、他の食材にも細菌を移してしまう恐れがあります。ですから、理想としては、肉や魚を調理する器具と、野菜等を調理する器具を分けることが細菌性腸炎の対策となります。
ただ、いちいち食材によって調理器具を変えていたら、料理が面倒になってしまいますよね。ですから、細菌の付着が多い肉や魚より前に、野菜の調理をする、といった、調理の順番の工夫をするだけでも、十分な対策となります。
また、調理をするキッチンが汚れていると、細菌が繁殖し、それが食材に付着する恐れがあります。ですから、キッチンはこまめに掃除をすることをお勧めします。
抗生物質の服用
細菌性腸炎となってしまった場合、医者から抗生物質が処方されることがあります。抗生物質は腸内に侵入した細菌を殺してくれるので、細菌性腸炎の治療として効果的です。
ただ、細菌に効く抗生物質はそれぞれ異なっているので、細菌にあった抗生物質でなければ効果があまり期待できません。
また、細菌性腸炎でなく、ウイルス性腸炎であった場合は、抗生物質が効きにくいので、確実な検査を受けて、処方箋をもらうことが大切です。
制吐薬・止痢薬・鎮痛剤の投与
細菌性腸炎は、体に入った細菌を体外に排出することで治療が完了します。そのため、細菌性腸炎においては、下痢、嘔吐、腹痛は、細菌と免疫細胞の戦いの証拠ですから、これをとめてしまう制吐薬・止痢薬・鎮痛剤の服用は避けるべきです。
しかし、下痢、嘔吐、腹痛の症状が重篤である場合は、脱水症状などを引き起こす可能性があります。ですから、たえきれない場合は、制吐薬・止痢薬・鎮痛剤を服用して、体の保護を図ります。
細菌性腸炎を治すために下痢、嘔吐、腹痛を我慢しすぎると、逆効果となる場合がありますので、無理は禁物です。
まとめ
細菌性腸炎の原因は、食べ物に付着した細菌が体に入ってしまうことが挙げられます。
症状としては、細菌を体外へ排出するための下痢、嘔吐、細菌と免疫細胞が戦う際に生じる腹痛が代表的です。また、細菌の働きを弱めるための発熱、発熱に伴う筋肉痛、悪寒、さらには神経障害や呼吸障害を引き起こす恐れがあります。
対策としては、食材に細菌が付着しないよう、食材は冷蔵庫で保存して、賞味期限が切れる前に使い切ること、キッチン周りや台所用品の清潔を保つことが挙げられます。治療法としては、抗生物質の服用、制吐薬・止痢薬・鎮痛剤の服用があります。
これから夏本番ですから、食品に細菌が付着し繁殖しやすい時期です。ですので、小さなことに注意して、細菌性腸炎の予防に努めてください。