熊本地震によって、避難所生活や車中泊などによって、エコノミークラス症候群が多数発覚しました。飛行機によるものだと思われがちですが、車やバス、オフィスなどでも発症の危険性がひそんでいます。普段の生活で座りっぱなしの生活が多い人は気をつけましょう。
エコノミークラス症候群とは?
まずは、エコノミー症候群について知っておきましょう。
どんな状況でも発症の可能性あり
エコノミークラス症候群はあるサッカー選手が飛行機内で発症したことで注目されました。また、長時間ゲームをやり続けていた男性がエコノミークラス症候群を発症したというニュースもあります。
また、震災の被災者の方で、避難のために車中泊を余儀なくされたことによって、発症し亡くなられたケースもあります。飛行機だけではなく、同じ姿勢を続けていることによって、どんな状況下であっても発症する可能性を秘めた病気です。
名前からすると、飛行機のエコノミークラスでしか起きないイメージがありますが、医学界では、「深部静脈血栓症」、「肺塞栓症」と呼ばれるのが一般的なようです。
エコノミークラス症候群と呼ばれるワケ
医学界では、「深部静脈血栓症」や「肺塞栓症」と呼ばれる他、旅行業界では、「ロングフライト症候群」「旅行者血栓症」とも呼ばれています。
長時間同じ姿勢を続けることによって、足の静脈の血流が滞り、足に血の塊(血栓)ができてしまいます。座っていた姿勢から、突然立ち上がった瞬間にその血の塊が静脈に流れ始め、心臓を通って肺の静脈にまで届きます。そうなると、酸素が供給できなくなり、呼吸困難や全身の血液循環に支障を来たし、死亡してしまうケースもあるきわめて危険な病気です。
発症率が最も高まるのが、6時間以上同じ体勢で座っていることです。このことから、エコノミークラス症候群という名がつきました。
特に飛行機の中は湿度が低くなり、体の水分が失われやすくなります。フライト中の機内の湿度は5〜15%ほどで、サハラ砂漠より乾燥しています。0.8気圧値度までしかならないため、1500m級の山頂にいるのと同じ状態です。これらの条件は血液の流れが悪くなるため、血栓ができやすくなります。
また、機内で、アルコールやコーヒーを飲むことで水分が失われ、さらに血栓ができやすい状態になってしまいます。長時間のフライト後に、飛行機が着陸して動き出した途端に、血栓が肺に入り込み、発症すると言われています。
エコノミー症候群はどんな人がなりやすい?
エコノミークラス症候群は血栓症です。血栓ができやすい人が、なりやすい人ということになります。主に血栓ができやすい人というのは、糖尿病や肥満症の人です。特に肥満症の人は、体重が重いため、座った時に足がうっ血しやすいため、血栓ができやすいとされます。
また、肥満症や糖尿病の人は、ドロドロ血液の人が多く、そのため血栓ができやすいと言われています。また、40歳以上の女性もなりやすい傾向にあるそうです。
他には、下記にあてはまる人が比較的なりやすいと言われています
- 血栓症を起こしたことがある
- 血栓症を起こした家族や親族がいる
- 生まれつき血液が固まりやすい
- ケガや手術をしたばかり
- ピルなど避妊薬を服用している
- 妊娠中や出産後
- 喫煙者
ピルの服用は妊娠中、産後の女性は、ホルモンの働きで血が固まりやすくなっています。他に、タバコを吸う人は血管が収縮している傾向にあるため、なりやすいと言われています。また、身長が150cm以下の人も注意が必要です。
それは、ふくらはぎの面積が少ないため、座った時に椅子との隙間が出づらく、圧迫される箇所が多くなり、血栓を起こしやすい可能性があります。他にも、血液がドロドロの状態になっている、高血圧や高コレステロールの人も要注意です。
また、最近、カルーテル治療を経験した人も注意が必要です。カルーテル治療とは、カルーテル(ストローのような管)を使って、体内に薬剤の注入をしたり、体液を排出します。カルーテル治療は、治療したい箇所に直接アプローチできるため、手術の必要がなく、患者への負担が少ないというメリットがあり、この治療法を取り入れる人が増えています。ですが、血管に傷をつけてしまう可能性があります。
血管内に傷ができると、それを修復するために血栓ができやすくなります。それは、カルーテルでできた傷を修復するかさぶたが血管内にできるため、治るための経過のひとつです。ですが、このかさぶたが血栓を引き起こし、エコノミー症候群の発症のきっかけにもなるため、十分に注意が必要です。
エコノミー症候群の症状は?
エコノミー症候群の症状について紹介します。
「深部静脈血栓症」や「肺塞栓症」の正体
通常は、血管内に血栓ができても、自然に溶けてなくなります。エコノミークラス症候群になるのは、この血栓が溶ける前に肺の血管をふさいでしまうことで挽き起こります。
血栓の9割以上は下半身でできます。この血栓は「深部静脈血栓症」と呼ばれます。これが血液の流れにのって、肺静脈まで届いてしまった時に、「肺塞栓症」を引き起こします。この2つを合わせて「急性肺血栓塞栓症」と呼ばれます。
「急性肺血栓塞栓症」では、血栓が肺静脈を塞いでしまうため、血液中に酸素を供給できなくなってしまいます。口では呼吸をしているのに、血液中の酸素の量がどんどん減少していくため、呼吸困難のような症状となります。さらに、酸素量の減少によって、胸が痛んだり、全身のだるさが出てきます。重症の場合、意識不明やショック症状にもなります。
「深部静脈血栓症」や「肺塞栓症」の症状
- 呼吸困難や息苦しさ
- 動悸が早くなる
- めまい、失神
- 胸や背中の痛み
- パニックなどの精神不安
- 倦怠感
これらの症状は、飛行機内などじっとしている時ではなく、体を動かしたタイミングで現れます。これまでに停滞していた血液が一気に巡り、血栓も一緒に肺に届いてしまうことで症状として出ます。飛行機だけでなく、長時間のドライブで、車中から下りたタイミングでも要注意です。
あなたは大丈夫!?エコノミークラス症候群の初期症状
血管の中に血栓ができると次のような症状が見られることがあります。
- 足のむくみ
- 足のしびれや痛み
- 皮膚の色が褐色に変わる
このような症状が見られる時もあれば、無自覚・無症状の場合もあります。また、血管の構造上、左足に起きやすいとも言われています。
血液の流れが悪く、固まりやすいという2つの条件が重なった時に起こってしまうのですが、これは椅子に座ったままや、狭い場所で寝るなど同じ姿勢を長時間続けることによってなります。
長時間同じ姿勢になりやすいのは……
- 飛行機や新幹線での移動
- 自家用車、高速バス、夜行バスなどの乗車や運転
- 長時間ゲームやテレビ、デスクワーク
などがあります。
日常生活でやむをえず行動もあったりしますので、これらのような状態になる場合は、意識して体を動かし、水分をこまめに摂る事が重要です。
エコノミー症候群の治療法はある?
エコノミークラス症候群の症状が出た場合、治療法はいくつかあります。薬の投与や外科手術、カルーテル治療などがあります。診察は、血管外科、心臓血管外科などになりますが、近くにない場合は外科で受診するようにしましょう。
また、気をつけたいのは、すぐに発症する場合もあれば、2、3時間後、2週間後と時間が経過してから発症する場合もあります。なんとなく、おかしいなと思ったら早めに病院へ受診するようにしましょう。
未然に防ぐケア方法
人間は、体から水分が不足すると、血液がドロドロになり血栓ができやすくなります。また、足に血液がたまりやすく、長時間動かさないでいると、血流が滞りやすくなります。
水分を意識してたっぷり摂る
水分が足りず、脱水に近い症状になると、体内の血液が濃くなり、血栓ができやすくなります。長時間同じ姿勢を取って、トイレに行くのがおっくうになり、水分を摂らないのはとても危険です。喉が乾いたら飲むのではなく、こまめに水分を摂るようにしましょう。また、コーヒーなどのカフェインが含まれる飲料やアルコール類は利尿作用があるため、飲む時は同量の水分を摂りましょう。
足を意識して動かす
飛行機内はもちろん、車中やデスクワークなどで、6時間以上同じ姿勢をしている時に発症する可能性が高まると言われています。じっとしているのではなく、トイレで席を立つなど、ささいな動きが重要になってきます。また、座った状態でも足の運動をすることで、血栓ができるのをかなり予防してくれます。
足の運動は……、
- 両足の指でじゃんけんをする
- 足を上下につま先立ちする
- つま先を引き上げる
- ひざを両手で抱え、足の力を抜いて足首を回す
- ふくらはぎをもむ
などが効果的です。
また、足を組むことは極力避けましょう。なぜなら、足を組むことで血行が悪くなり、エコノミー症候群のリスクが上がってしまうのです。車中の場合は、30秒ほどダッシュボードに両足を乗せるだけでも十分効果があります。こうすることで、足の位置が胴体よりも高くなり、血行が良くなります。
ゆったりとした服装をする
体を締め付けるような服装は血液の流れを滞らせてしまいます。飛行機や車中など、長時間いる場合は、ベルトを緩める、楽な服装に着替える、靴を脱いでスリッパに履き替えるなど、ゆったりとした服装をしましょう。
また、着用すると足の血流を促すようなソックスやストッキングなどもおすすめです。
まとめ
エコノミークラス症候群の発症を防ぐには、日頃から同じ姿勢を続けない意識が最も大事になります。また、足やふくらはぎを動かしたり、ウオーキングやストレッチなどの日々のメンテナンスもおすすめです。
突然に起こってしまう恐ろしい病気でもあるので、未然に防ぐ方法を頭に入れておきましょう。