緑の眩しい季節。青々と輝く並木道を歩くと、心まで洗われる気がします。しかし、一つ気をつけなければならないことが…この季節は、毛虫が発生する時期でもあるのです。近年では、毛虫の大量発生による被害も多々報告されています。
また、直接触れていなくても、毛虫によるかぶれやかゆみ、発疹といったトラブルが起こる場合もありますので、小さな子供を持つ家庭では、特に注意が必要です。そして、症状が現れたとき、安易に触ったり掻きむしったりすると、治療を困難にさせてしまいます。
ここでは、毛虫に刺されたときに生じる、毛虫皮膚炎の症状や対処法・予防法について、詳しくご紹介いたします。
毛虫皮膚炎とは?
毛虫の毒毛による皮膚疾患を「毛虫皮膚炎」と言います。毛虫に直接触れていなくても、症状が現れる場合がありますので、とくに毛虫が発生するこれからの季節、原因不明のかゆみや発疹が出たときは毛虫が原因になっている可能性もあります。
毛虫の中でも、人の皮膚に触れるとかゆみやかぶれを引き起こす「毒毛」を持っている毛虫はごく一部であると言われていますが、毛虫による被害は都心部や市街地で、近年増加傾向にあるようです。
さて、実際にはどのような症状が現れるのか、毛虫皮膚炎の症状について見ていきましょう。
毛虫皮膚炎の症状
毛虫皮膚炎の症状としては、主に、かゆみ、かぶれ、赤みを伴う発疹、痛みなどがあげられます。
刺されたばかりのときは、気付かないことが多いのですが、数分~数時間すると、蕁麻疹のような発疹が出はじめ、その後、膨らんだところに強いかゆみが生じ、時間が経つにつれて、かゆみにヒリヒリとした痛みが加わってきます。
そして、1~2日後、米粒ほどの赤みを伴う斑点が、その周囲にも広がっていき、ひどい場合には、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性もあるのです。
さらに厄介なのが、毛虫の毒毛は、風で簡単に飛散するため、外に干した洗濯物に毒毛が付着していた場合、その洗濯物が肌に触れると、毛虫に直接刺されていなくても、このような症状が現れます。
また、そのほかにも、毒毛の落ちている場所に触れた場合も同様なので、小さな子供はとくに注意が必要です。
症状が人から人へうつることはありませんが、毛虫に刺されても、私たちの体内で抗体ができないため、毛虫に刺されたら、何度でも毛虫皮膚炎になってしまいます。
<毛虫の種類別>症状の特徴
毒毛を持つ毛虫には、「毒針毛型」と「毒棘型」の2種類があり、毛虫の種類によって、人の皮膚に触れたときに現れる症状が異なります。
【ドクガ類】
ドクガの幼虫(毛虫)は、非常に短い毒針毛を持っています。幼虫だけではなく、蛹や成虫など、成長過程における全ての段階の姿に毒針毛をまとっています。幼虫の特徴は、オレンジと黒が混ざった色味をしており、細くてやや長めの毛で、5月~6月に多く見られます。
ドクガ類では、ほかにも「チャドクガ」という黄色と黒のドット柄のような見た目をした毛虫や、ドクガの幼虫とよく似た色味の「モンシロドクガ」という毛虫などがいます。
ドクガ類の毛虫に刺されると、赤いプツプツとした発疹が出たあと、蕁麻疹のような少し膨らみのある発疹に変化します。かゆみもかなり強く、毛虫皮膚炎の中でも「ドクガ皮膚炎」という言葉があるほどです。また、強いかゆみは2~3週間続くと言われています。
【イラガ類】
イラガの幼虫は、黄緑色をして、太く短い毒棘を持ち、ずんぐりとした体をしています。別名「デンキムシ」と呼ばれるように、人の皮膚に刺さると同時に、毒を出し、刺されると電気が走るようにピリッとした痛みがあります。刺された瞬間は、思わず声が出るほどの痛みだとか…。
赤く腫れ、痛みとかゆみを伴いますが、ドクガ類のように激しいかゆみではなく、痛みも1~2時間で治まるものがほとんどです。かゆみが続くのは数日から1週間と言われ、ドクガ類に比べて回復も早いと言われています。
イラガ類は、6月~7月と、9~10月に多く発生し、イラガのほかにも「ヒロヘリアオイラガ」や、他のイラガ類の幼虫に比べ、両体側が黒い色をしている「ヒメクロイラガ」などがいます。また、ドクガと異なり、幼虫だけが毒を持っているのも特徴です。
【カレハガ類】
カレハガ類の中でも、松の害虫として知られているマツカレハの幼虫は、10月頃から発生し、こげ茶とオレンジを混ぜたような色で、やや長細い体をしています。背中に3ヶ所、黒いブラシ状の毛束があるのが特徴です。
刺されると強い痛みがあり、赤く腫れ、かゆみを伴います。また、刺さった毒毛自体も肉眼で確認することができるので、毛虫による皮膚疾患かどうかを見分ける際に、比較的判断しやすいと言えるでしょう。
症状は2~3週間続き、場合によっては発熱を伴うこともあります。成虫には毒はありませんが、幼虫・蛹は毒を持っています。アカマツやクロマツに多く生息し、時々大量発生して問題になることもあるようです。
毛虫に刺されたときの対処法
毛虫の毒針毛・毒棘が皮膚に触れてしまったとき、むやみに掻いてしまうと、毒毛が奥へ入り込んでしまったり、掻いた手に折れた毒毛が付着し、その手だけではなく、手で触ったほかの部位にまで症状が広がってしまいます。
毛虫に刺されたな、と感じるときは、まずはとにかく、刺さった毒毛を取り除くことが第一ですので、掻かないようにしてください。
また、それぞれの毛虫が持つ毒性によって、適切な対処法も若干異なってきます。ここでは、毛虫の種類別に、適切な対処法をご紹介いたします。家庭でも十分治療はできますが、症状が長引く場合や、広範囲に炎症が広がっている場合には、皮膚科を受診してください。
ドクガ類の場合
ドクガ類の毒針毛は、細くて短いため、折れやすいので、絶対に擦ったり掻いたりしないようにしてください。
まずは、セロハンテープやガムテープをそっと患部にあてて、剥がします。一度使ったテープはすぐに捨て、新たなテープを使い、患部にあて、剥がすといった工程を数回繰り返し、皮膚に刺さった毒毛を抜いていきます。
その後、流水で十分に洗い流したら、抗ヒスタミン含有のステロイド軟膏を塗りましょう。
イラガ類の場合
イラガは毒針毛と毒棘の両方を持っていますので、棘が刺さっている場合は、毛抜きやピンセットなどで抜きましょう。(※使ったピンセットなどは、使用後に十分洗浄・消毒してください)
次に、ドクガ類の対処法と同じように、セロハンテープなどで、毒毛を抜いては洗い流すという工程を数回繰り返し、抗ヒスタミン含有のステロイド軟膏を塗ります。
セロハンテープなどで毒毛を抜く際には、強く抑えると毒毛が奥まで入り込む可能性があるので、そっと皮膚に乗せるようにテープをあててください。
カレハガ類の場合
カレハガ類のマツカレハの幼虫の毒毛は、肉眼で確認できますので、皮膚に刺さっている毒毛を毛抜きやピンセットなどで丁寧に抜きましょう。
全て抜き終わったら、流水でよく洗い流し、抗ヒスタミン含有のステロイド軟膏を塗りましょう。
毛虫皮膚炎を予防しよう!
毛虫の発生しやすい初夏~秋口あたりまでは、草むらや木の多い場所へ行くときなど、しっかり対策をしてから出かけ、毛虫皮膚炎を予防しましょう。
とくに、小さな子供は好奇心も旺盛なので、いろいろ触ってしまいます。子供のような柔らかい皮膚はダメージを受けやすいので、気をつけなければなりません。
さて、毛虫皮膚炎を予防するための方法を見ていきましょう。
長袖・長ズボン
毛虫が発生する季節は、肌の露出が多くなる季節でもあります。もちろん気温も高くなりますので、ずっと長袖を着る必要はありませんが、緑の多い場所や草むらなどの毛虫が発生しやすい場所へ近づく際には、できるだけ長ズボンを着用し、長袖を身につけましょう。
夏場は、紫外線防止も兼ねて、長袖の羽織を一枚もって出かけると、何かと便利です。
また、小さな子供は、暑がって嫌がるかもしれませんが、緑の多い公園などで遊ぶときにも、薄手の長袖を着用させてあげると安心です。最近は、涼しい素材のものも多く出ているようですので、それらを試してみるのも良いかもしれません。
衣類に毛虫がついた場合
もし、衣類に毛虫が付いているのを発見した場合、慌てて手で払いのけないよう注意してください。そっと衣類を脱ぎ、毛虫が付いている部分を、衣類の裏側から軽く叩くようにして、毛虫を落とします。
次に、皮膚に毒毛が刺さったときと同じように、ガムテープ(※衣類の場合は、セロハンテープよりガムテープの方が扱いやすいです)を貼っては剥がすを繰り返し、毒毛を抜いていきます。このとき、衣類のゴミを取るように、何度もペタペタとやるのではなく、一度貼って剥がしたら、新たなテープを使ってください。
次に、衣類を洗濯します。毛虫のついた衣類だけではなく、下着を含める全ての衣類を洗濯しましょう。毛虫の毒性は、熱に弱いため、50℃以上のお湯で洗ってください。
また、他に身に付けていた帽子やバッグなどの小物類があれば、念のため、それらもガムテープなどで処理しておくと安心です。
普段の洗濯時の注意点
とくに、比較的低い建物に住んでいたり、毛虫のつきやすい木(サクラ・ツバキ・サザンカなど)がそばにある家では、干した洗濯物を取り込んだあと、ガムテープなどで、処理すると安心です。
また、干すときには、木がある側に風よけを立てるなどの対策方法もあります。そこまで神経質になる必要はありませんが、あからさまに毛虫の多い木がそばにある場合には、気をつけましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。並木道を歩くと、時々毛虫が突然ぶら下がっていて驚くことがあります。全ての毛虫に毒性があるわけではありませんが、どのような毛虫に注意しなければならないのかということを知っておくだけでも、安心材料が増えるのではないでしょうか。
爽やかな季節は、生き物たちも蠢き始めます。「もしも」に備えた知識を増やし、安心してその季節を存分に楽しみたいものですね。