ここ数年のうちに、うつ病は一気にメジャーな病気になりました。世の中には「うつ」の一言だけではなく、新型うつや季節性うつのように「うつ」に別な言葉を足したようなものや、うつのことを調べているうちに見つける、適応障害などの医学的な雰囲気を醸し出すものも浸透しています。
その中に「自律神経失調症」という言葉もありませんでしたか。おそらくうつのことを調べれば必ず見かけるであろう言葉ですが、皆さんはこの病気をどのように捉えていますか。医学的な名前と俗名でしょうか、それとも違う病気なのでしょうか。今回はこの2点について掘り下げていきます。
自律神経失調症ってどんな病気?
うつはメディアなどが何度も取り上げているために、その症状は調べなくてもわかるかと思いますが、自律神経失調症の症状は明確に伝えることが出来ますか。
自律神経失調症とは
その名の通り、自律神経が不調を起こす病気です。
自律神経には交感神経と副交感神経という、それぞれ違った働きをする二つの神経が通っています。交感神経は主に昼間の運動を司る神経で、逆に副交感神経は夜間の休息を司る神経です。この2本の神経は通常であれば日中と夜間で切り替わります。
しかし、ストレスなどの影響により切り替わりが上手くいかなくなってしまう、自律神経の乱れとその症状のことを「自律神経失調症」と呼びます。運動の神経と休息の神経があべこべになるので、自律神経失調症になると暑くないのに汗をかく、体が火照る、夜に眠れないといったあべこべな症状が出るようになります。
自律神経失調症の詳しい症状や原因は何?
自律神経失調症の症状は多岐にわたり、めまいや頭痛、肩凝りと言った一般的な症状も多く見られますが、代表的なものは上記のようなあべこべな症状です。
例えば暑くないのに汗をかく、手足が冷えているのに顔が火照ると言った症状や、夜に眠れなくなったり朝に眠くなったりすること、他にも日中の仕事はやる気が出ないが夜になると元気になるといった症状は、運動を司る神経が夜に働いてしまったり、休息を司る神経が昼に働いてしまっているということを考えれば分かりやすいですよね。
自律神経とは、人間が生活をしていく上で必要になる多くの要素を補完しています。例えば、悲しいと思うことにより涙が出る、緊張すると心臓がバクバクすると言った心と体の関係を管理するのも自律神経ですし、外気に合わせての体温の調整やホルモン分泌をするのも自律神経です。
ホルモンバランスの乱れによる更年期障害の症状と自律神経失調症の症状が似ているのも納得ですね。
自律神経が乱れる原因と対策
では、自律神経が乱れる理由とは一体何でしょう。実は、その多くはストレスです。一口にストレスと言っても、職場や家庭での人間関係によるストレスから、環境の変化によるストレス、昼夜の逆転や食品に含まれる添加物などにより、知らず知らずのうちに体に負担をかけている無自覚なストレスも、原因として考えられます。
また、幼少時に自家中毒を起こしやすかった方などはストレスに弱い体質ということも考えられ、そういった方は自律神経も乱れやすい傾向にあるので注意が必要です。
では、自律神経失調症を防ぐ、もしくはそう診断されてしまった際に効果的なものは何でしょう。特に効果的なのはやはり呼吸かと思われます。例えば、ゆっくりと深く呼吸をすることは、副交感神経の働きを促進するので、夜にウォーキングをすることは不眠症状に効果的と言えるでしょう。同様の理由でヨガも効果的であり、自律神経失調症の治療法として採用している心療内科もあるほどです。同じ有酸素運動でもランニングは交感神経を刺激するので、夜は極力避けた方がいいでしょう。
湯船に浸かることも効果的なので、ストレスが溜まっている時は忙しくても出来る限り湯船に浸かった方が良いようです。ただし、汗をかいてすっきりしたいからと言って、熱いお湯を張った湯船に長時間浸かると、逆に体が乾燥して美容に悪影響を及ぼすこともあるそうです。肌の乾燥もストレスの原因になりますので、お風呂の温度は38~40℃くらいの温めに設定しましょう。
「気にする」という行為とストレスが強く結びついていることを理解し、自分は今、自律神経が乱れているということを気にしすぎて症状を悪化させないようにすることも重要です。
自律神経失調症とうつ病の違い
自律神経失調症について明らかになったところで、うつ病との違いを見ていきましょう。
うつ病の症状から見える自律神経失調症との違い
では、この自律神経失調症とうつ病の違いについて説明していきます。
自律神経失調症というのは、上記の通り自律神経がストレスによって乱れることにより「体に」症状が現れます。対してうつ病の症状は「意欲が出ない」「集中力がない」「何に対しても興味が湧かない」と言った不安感や絶望感が引き起こされ、「心に」症状が現れます。うつ病は「精神障害」ということになります。
うつ病の症状としてめまいや倦怠感、不眠症などが挙げられることもありますが、これらの原因は全てうつ病を併発した自律神経失調症の症状です。
うつ病と自律神経失調症は二つで一つ?
うつ病による体の症状は「うつ病を併発した自律神経失調症の症状」ですが、うつ病と自律神経失調症は併発しやすいものなのでしょうか。
まず、自律神経失調症はストレスにより神経が異常を起こし、その結果体に異常が出ると言った「症状」です。それに対し、うつ病はストレスにより脳内の神経伝達物質の分泌以上によって精神に異常が出るれっきとした「病気」です。自律神経失調症とうつ病は症状やどういった経緯で起こるかが違うため、全く違う病気であると言えます。また、うつ病は病気でも自律神経失調症は病気のうちに入らないとする医師もいるようです。
しかし、双方共にストレスを発端とするので、併発の可能性が高いと考える方が多いと思います。答えは「正解」とは言い難いのですが、「不正解」でもありません。この二つの病気は全く違う病気ですが、うつ病は自律神経失調症のカテゴリに含まれています。つまり、自律神経失調症から発展する病気の一つにうつ病があり、併発しやすいと言うよりは、うつ病に至るまでの経緯に自律神経失調症があるという具合なのです。
自律神経失調症をうつ病に発展させないためには
自律神経失調症からうつ病に発展するように、うつ病になってからもいくつかの段階があります。自律神経失調症から発展しつつある状態であれば、困難があってもやるべきことが出来る段階ですので、自ら状況を改善していくことが可能ですが、病状が悪化すると仕事や家事、最悪の場合入浴や歯磨きなども出来なくなってしまいます。
つまり、うつ病の兆しが見えたら「まだ頑張れる」と無理をすること無く、軽度のうちに自分の手で不安な要素を潰してしまうのが最善と言えます。
軽度のうつ病対策について
うつ病になりそうだと思ったら、まずは考え方を変えましょう。
うつ病にかかりやすい人というのは、完璧主義者が多いと言われています。「うつ病になりそうだから、今は100点満点の仕事をするのではなく、合格点の仕事をしよう」と考えるようにしましょう。また、自分がうつ病だと自分を卑下してしまうことは症状の悪化に繋がりますので注意してください。最低限でいいので、今は自分を多少甘やかすようにしましょう。
また、食生活の見直しも有効です。うつ病はセロトニンの不足により引き起こされると聞いたことがある方もいらっしゃると思います。このセロトニンを生成するトリプトファンが多く含まれている食材を意識して摂取するようにしましょう。トリプトファンが含まれる食材は肉類、乳製品、納豆、たらこなどです。
最後に、日光を浴びることを心がけましょう。欧米にうつ病が多い理由は、照明が間接照明であったり南向きの家が少なく部屋が薄暗いためという考え方があります。また、冬季性うつと言って、特に春や夏に生まれた人が冬になるとうつの症状が現れやすいと言われているのですが、こちらも冬は日差しが弱いことが原因と考えられています。うつ病になると動くのが億劫ですが、少しでいいので外に出るという習慣を心がけると良いでしょう。
身近な人がうつ病になったら・・・
身近な人がうつ病になってしまった場合、周囲の理解は不可欠になります。メディアの力で世の中には仮面うつ、適応障害など様々なうつ病に関する言葉が浸透し、世間には「うつ病は甘え」という考えを持つ方も多くいらっしゃると思います。
ただし、うつ病はとても難しい病気で、素人目にはまず判断できません。うつ病を疑う方に対して、そう言った暴言で責め立てることは控えるべきです。また、うつ病だと診断されてしまった方については、とにかく優しい言葉をかけて、自分が味方であることを伝えてあげて下さい。
特に患者さんのご家族の場合、頑張って回復して欲しいと思うあまりに叱咤激励したり、外出させたりしたくなることもあるかと思われますが、これは逆効果になりますので気を付けましょう。
まとめ
うつ病の確実で安全な治療法は、やはり軽度の、自律神経失調症だけのうちに自分で予防してしまうことだと思います。現代の社会人は無理をしがちなことが多いですが、無理をすることによって長期間仕事に穴を空けるはめになったら本末転倒ですよね。
たまには自分を甘やかし、無理だと思ったら無理をしない、またそういうことが容認される社会を作っていけたら良いですね。
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