ウォシュレットは今やすっかり固有名詞として定着し、日本のトイレ文化を世界に冠たるものにしました。どの先進国も日本の優れたトイレを、ただの汚物処理から美意識の個室と認識を変えたと絶賛します。快適さ、美しさだけではありません。
このウォシュレット、実は感染予防の優れモノなのです。便から経由する、あらゆるウイルス対策に大きな力を発揮します。便に存在する経口感染経路について、このウォシュレットの使い方をマスターしてがっちりガードしましょう。
今さら聞けない、ウォシュレットとは
あまりにも普及して、知っていなければ恥ずかしい常識のようなウォシュレットですが、使い方を知らない方は意外に多いものです。
TOTOの商品名です
この名前、ここでは販売目的で使用いたしません、と明記しておきます。温座洗浄機能が付くと通常、この名前を使いますが「便器」「トイレ」と違ってウォシュレットはTOTOだけの商品名で登録商標(日本 第1665963)済のものです。他の会社も同じような商品を開発していますので類似品は横行していますが、使用するにあたり感染予防の観点からは問題ありません。
ただ誤解を与えないようにここでは説明する必要があったので書きましたが、少しウォシュレットが誕生した経緯をお話ししましょう。昔から存在していたように思われますが1980年代にTOTOが2機種販売したのが始まりです。
その前に1969年にアメリカの温座便器をヒントに国内初の商品を世に出しましたが、当時はまだ水洗トイレさえ普及していないし価格も高すぎて販売されませんでした。苦節11年。当時、肛門の位置がどこにあるのか情報がなかったそうです。そこで社員が自らの位置を報告して研究材料にしました。
今や肛門洗浄、ビデ洗浄まで標準装備ですが医学の分野ではないために、独自の研究から今の商品に至ったわけです。その結果、肛門は43°、ビデは53°という角度が確定されました。
充実した類似商品も出回っているので、今ではTOTOに限らず同じ効果が期待できると思います。
拭くのが先?洗うのが先?
個室でこっそり行うだけに公式見解はありませんが、一応メーカーからの説明はあるようです。排便終了後、まず、ウォシュレット。次にペーパーで優しく水分をふき取って、もう一度ウォシュレットして乾燥で完了です。
便を拭くだけですと、肛門の括約筋にあるシワシワの粘膜にこすりつけているだけで取れていません。一番低い温度の温水で最小の出力で10秒ほど洗浄しましょう。ぬるい温度でも便は溶けますし、水圧が高いと粘膜を傷つけたり直腸に菌を送り込んでしまったりするので要注意です。洗浄時間も長すぎると粘膜機能を損なってしまいます。気持ち良くても我慢して次の排便時まで楽しみとしておいておきましょう。
ティッシュでゴシゴシ拭かなくていいので痔があれば早く治ります。切れ痔の傷口に優しいのはもちろんのこと、いぼ痔で拭き取るのが難しい肛門にも温水洗浄は大助かりです。また、ティッシュから手に便の菌が付着して感染してしまう、というリスクも減らしてくれます。
最後の乾燥ですが、これも長時間は控えてください。粘膜を乾燥させてしまうと排便時に切れやすくなってしまします。これが正しい一連の流れです。
自宅ではなく外出先でウォシュレット機能を使う時、温度の設定を確認してください。温水温度も強度も最高値に設定されている場合があります。いきなり高温ではビックリしますから。
ウォッシュレットの効果
なんと言ってもウォシュレットの大きなメリットは便に触れなくて済むことです。古代から便に触れずに排泄を完了できるなんて事は、ありませんでした。トイレ衛生の歴史は伝染病の歴史でもあります。
安全な便処理
ノロウイルスは便の中だけでなく吐しゃ物もそうですが、空気中にウイルスが浮遊します。ですのでトイレだけの対策で全ては解決できませんが、それでも大きなリスク軽減につながることは間違いありません。自分の手でティッシュを持って拭く行為自体が、浮遊するウイルスとの距離を縮めて危険なのです。
人感センサーで人がトイレに入ると照明が付き、トイレの蓋が自動で開くものも普及しました。これもウイルスの付着を許さない良い方法です。
大人でも体力を失って衰弱している時に、気をつけて便を拭くのは大変です。まして学童期くらいのお子さんでは完全な処理は難しいことでしょう。でもウォシュレットなら簡単に、しかも安全に処理してくれます。
下痢の感染リスクを持つ病気はたくさんあります。下痢をした時、冷やすとさらに痛みが増します。温座に座って、ホカホカしてそれだけでも痛みが緩和されます。そして温かい洗浄水で肛門部の緊張はほぐれて気持ちよく養生できます。
下痢でなくてもプール熱などは便の中に存在する感染ウイルスとして有名です。水中で感染するので温水なら、もっと溶けて流れます。ウイルスの付着した手でドアノブを触らなくて済むのは、家庭内での感染予防対策として素晴らしい方法です。
消毒・消臭・芳香までも!
安全だけでなく快適性をこれでもか、これでもかと追及しています。消毒・消臭のみならず芳香まで兼ね備えたラインアップも充実してきました。
汚い、暗い個室でしかなかったトイレは、ウォシュレット機能の充実によってリビングなみの快適性を実現しました。水と電気を自由に操る文明と、人間の排泄行為の尊厳をこの上なく高めた文化によって、トイレは素晴らしい個室に進化したのです。
国際トイレ博で日本のウォシュレットは、衝撃的な感動を多くの方々に与えました。そこに哲学を感じたからです。便器ではない、汚物ではない、人の営みの闇に光をもたらせたウォシュレットに革命を見たのでした。
器用できれい好きの日本人らしい発明として今も注目されています。こんな素晴らしいウォシュレットも使い方を誤れば弊害も生まれるのです。そこは文明の利器が持つ二面性というものでしょう。
気を付けたい、こんなこと
ウォシュレットは、快適すぎて全くトイレのイメージがない空間を実現しました。これからますます個室として進化していくことでしょう。
それはそれで新しい課題を生んでしまう、人間というのは厄介です。快適すぎて長居できる環境にしてしまいやすい事が問題です。タバコの好きな方は灰皿を置くでしょうし、雑誌や新聞を持ち込む方、スマホでゲームに興じる方もでてきます。
かつて不潔感から早く出たい場所でしかなかったトイレは、早く出て感染時間を短くできたものでした。せっかく感染リスクが減っても、アレコレ触りながら長居してしまっては別の理由から感染経路を作ってしまいます。長い間トイレに置きっぱなしの雑誌や新聞、灰皿などは掃除する人に感染させてしまうかもしれません。
あくまでも、トイレです。娯楽の持ち込みは慎みましょう。
ウォシュレットのデメリット
どんなものにもデメリットはあるものです。デメリットについて知ってさえいれば使い方を工夫できます。
便の観察がしにくい
便をティッシュで拭かないので、自分の便の状態を把握できません。見ないまま流してしまうので異常便を知らないまま病気が進行してしまうことがあります。
たとえば血便が出ていても検便でもしない限り分かりません。臓器に痛みがなく長期にわたって出血していれば、やがて貧血になってしまいます。便とは「お便り」です。身体からの重要な情報であって、ただの汚物ではありません。
腸からの出血であれば鮮やかな血便、胃からの出血であれば黒っぽいタール便、肝機能低下を知らせる緑便、胆機能に問題があれば白便と便の色だけでも様々なメッセージを出してくれるのです。
それら全てを抹殺してしまうリスクも覚えておきましょう。時々、あえてティッシュで拭き取って観察してから流しましょう。快適性と衛生を得る代償として、病気の早期発見を見逃してしまうことにならないように配慮したいものです。
排便前に洗浄してはいけない
便秘で苦しんでいる方は、排便の前にウォシュレットの洗浄水を肛門に当てて便意を促すと出やすいと聞きます。それは決してしてはいけないことです。
粘膜を不用意に洗ってしまうと、粘膜を傷つけてしまいます。それだけではありません。一番、恐ろしいことは温水シャワー刺激がないと便意をもよおさない身体になってしまうということです。
本来の使用目的から外れた利用で健康被害が出た場合、業者の責任ではありません。ウォシュレットのトイレでないと快適ではないという不満だけならまだしも、排便不能になるというのは危険です。
便意は健康な機能です。いつでも、どこでも発揮されなくてはなりません。それなのにウォシュレット機能で肛門に刺激を与えなくては排便もままならない、という身体になってしまっては自由な行動ができません。
依存症にならないように
快適すぎる空間の長居、肛門への温水シャワー刺激の快適さ、それらを手に入れると手放せなくなります。もう、ウォシュレットのないところなんて行けない!と公言される方に質問したいことがあります。
大きな災害で断水や停電になったら、どうしますか?
電気と水を駆使した快適空間は停電になって水道が破壊されれば使えません。避難所で水がないために掃除もままならないトイレでも、排泄はされなくてはならないのです。文明には感謝しながらも、私たちは排泄を本能として行わなくてはならない生物であることを、頭のどこかで考えておきましょう。
まとめ
人類の歴史に見ない快適な排泄空間を実現してくれたウォシュレット機能。使い方次第で救世主にも悪魔にもなる二面性は、文明の利器なればこその現象でしょう。
せっかくの発明ですから電気や通信技術同様に、メリットだけを進化させてデメリットを生まないように上手にお付き合いしたいものです。快適さに魂を奪われることさえなければ依存症になることまないでしょう。
排泄の自立を文明の利器で損なわないこと、これが重要なポイントです。
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