気分が落ち込む、喉に異物感がある、動悸、めまい、吐き気、しわがれ声、不眠症……。これらの症状で悩んでいる人、必見です!「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」という漢方薬をご存知でしょうか?
漢方は、身近な西洋薬に比べて、わかりにくい、曖昧だ、お金がかかる……など敷居が高いイメージを持たれている方が多いでしょう。しかし、体質改善が期待できる漢方薬は、原因不明のめまいや頭痛、不眠症や吐き気などの症状を改善することができるなど、メリットがたくさんあるのです。
そこで今回は、漢方薬初心者のあなたにもおすすめの、「半夏厚朴湯」の効果と気になる副作用、効果的な服用方法まで一気に紹介したいと思います。
漢方薬を知る
そもそも、普段飲むことの多い西洋薬と何が違うのでしょうか?
ここでは、漢方薬のメリット・デメリットなど基礎知識をおさえつつ、半夏厚朴湯の成分と合う体質についてお話ししていきます。
漢方薬のメリット・デメリット
漢方薬は、体の治癒力を高めると言われています。つまり、体質改善によって様々な病気を克服できるということです。体質改善が期待できれば、例えば更年期障害などで発症する原因不明の頭痛や発熱なども、漢方で症状を和らげることができるのです。
ただし、漢方薬は毎日飲み続けて体質を改善していくため、西洋薬に比べて即効性が低いのも事実です。また、錠剤や粉、座薬やシロップなど、服用のしやすさにこだわって作られている西洋薬と比べて、味にクセが強い漢方薬も多く、人によっては苦手と感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、副作用のリスクが西洋薬に比べて格段に低いという点を考えると、安心して飲める漢方薬は、年齢や性別問わず幅広い世代の方々におすすめの薬といえるでしょう。
半夏厚朴湯について
半夏厚朴湯の成分
副作用が少ないとはいえ、やはり成分は気になります。西洋薬に含まれる有効成分は1つですが、漢方薬は複数の生薬を症状に合わせて配合し、作られています。半夏厚朴湯も、5つの生薬をブレンドして作られているのです。生薬の内容と効能はこちら。
- 半夏(はんげ):5つの生薬のうち、最も多くの量を含有しているのが半夏。痰や吐き気を抑え、さらに鎮静作用もある
- 茯苓(ぶくりょう):薬膳料理にも使われることが多い茯苓は、鎮静効果、利尿作用、血糖値を下げる効果がある
- 厚朴(こうぼく):痰を抑え、胃腸の調子を整える効果がある。さらに、筋肉の緊張を和らげたり、利尿作用、抗菌作用も期待できる
- 蘇葉(そよう):食卓に並ぶ紫蘇のこと。鎮痛、鎮静、解熱、精神安定の効果がある
- 生姜(しょうきょう):こちらは薬味などで使う生姜のこと。発汗作用、健胃作用、食欲増進の効果が期待できる
これら5つの生薬が含まれている半夏厚朴湯は、心を鎮め、精神を安定させる作用により、神経症や不眠症に効果をもたらすことが分かります。
また、去痰作用や吐き気を抑える作用なども相まって、胃炎やつわりなどに悩んでいる方にも効果的と言えるでしょう。
半夏厚朴湯の「証」
これだけたくさんの成分が入った薬ともなれば、自分の体に合うかどうか不安になる人も多いでしょう。実は、漢方医学では、病気の箇所だけを診察するのではなく、体質や個人差を重要視して診断します。これを専門用語で「証」をとると言います。簡単にいうと、あなた自身の「体質」ということです。
つまり、漢方薬はあなたの体質に合っているかどうかも同時に診て、適切な薬を処方してくれるのです。ここで気になるのが、半夏厚朴湯はどんな証が最も効果があると考えられているのかということです。半夏厚朴湯が合うとされている証は、体力・抵抗力ともに中~低の人です。しかし、漢方医学には多くの流派があり証の考えが異なるので、必ず医師と相談の上、服用してください。
半夏厚朴湯が効果的な疾患と実際の効果
漢方薬の基礎知識を習得したら、続いてはどんな症状に苦しんでいる人が、どんな効果が得られるのかを詳しく見ていきましょう。
有効な症状
精神安定作用、鎮静作用、筋弛緩作用、鎮吐作用、健胃作用、去痰作用など、多くの作用と効果をもたらす半夏厚朴湯。実際に、どんな症状に有効なのか1つずつ紹介します。
不安神経症
ストレス社会のこのご時世、不安神経症で悩んでいる方は年々増えています。ストレスが原因となって引き起こされるこの病は、漠然とした強い不安や恐怖感によって、日常生活などに支障が出る病気です。
動悸、呼吸困難、頻脈などの症状も同時に現れることも多々あり、いつ発症するかわからないという恐怖と日々戦わなくてはいけないというのも、この病の特徴です。ちなみに、不安神経症の中には、「全般性不安障害」と「パニック障害」も含まれています。
漢方医学では、不安神経症は気の流れが停滞するなど「気の異常」と考える場合が多く、半夏厚朴湯の精神安定作用が乱れた気を正常にすることにより、神経症の不安感を抑えると言われています。
うつ病
うつ病などの気分障害の患者は2016年1月時点で110万人を超え、最近はめずらしい病気ではありません。うつ病は、気分が落ち込んだり、集中力や判断力の低下、さらに何に対しても意欲がわかなくなるなどの自覚症状があります。睡眠障害もうつ病の症状の一種で、重度になると全く眠れない日が続くこともあります。
うつ病患者に半夏厚朴湯を処方する際は、うつやヒステリーなどの精神症状に加え、のどの通りが悪かったり、胸のつかえ感や吐き気などの身体症状がある場合です。さらに、重度のうつ病患者には半夏厚朴湯は不向きで、体力も症状の程度も中間証の患者に用いられます。
つわり
妊娠中、西洋薬などの強い薬は胎児への影響を考えて避けられます。しかし、妊娠初期にみられるつわりでは、重度の場合、水さえも吐いてしまう状況になることもあります。そんな時に、半夏厚朴湯が処方されることがあります。
半夏厚朴湯は、吐き気を和らげるだけでなく、つわりで乱れた気を整え、抑うつを軽減させるために効果的と考えられています。
不眠症
漢方薬を用いて不眠症の治療を行う際は、神経が高ぶって眠りにつけない、ヒステリーになって心が落ち着かない時に、神経を鎮めることを目的とします。
さらに、なかなか眠れない、毎日眠りが浅いといった不眠に加え、就寝時に喉や胸に違和感があったり、息苦しさ、動悸がある場合に処方されることも多いでしょう。
自律神経失調症
生活習慣の乱れやストレスにより、自律神経のバランスが乱れることで起こるのが自律神経失調症です。人によって症状は様々で、頭痛、肩こり、食欲不振、下痢、不眠、動悸、めまいなど、症状は多岐にわたります。
自分ではこれらの体の不調を確認できているにも関わらず、病院で検査をしても異常が見つからないというのも特徴です。
常に感じる不安感や苛立ち、感じたことのないような気持ちの高ぶりなどが強い場合、半夏厚朴湯は有効な漢方薬です。
実際の効果と評判
有効な症状といっても、「証」つまり体質が全く合わないと効果は期待できません。これは、半夏厚朴湯だけに関わらず、漢方薬全体にいえます。症状が重度の患者などには効果が乏しいなど、体質や症状の度合いによって効き目の差は大きいでしょう。
実際の効果は、抗不安薬のように即効性があり、すぐに発作を一撃で抑えるような作用は期待できません。体の自然治癒力を高め、ゆっくりと穏やかに症状を和らげていくのです。例えば、不眠症に困っている際に睡眠薬を服用すると、数時間もすれば薬が効き、眠りにつくことができるでしょう。しかし、半夏厚朴湯は昨日よりも今日、今日よりも明日、といった感じで日に日に睡眠の質が良くなっていくというイメージです。
このように、半夏厚朴湯は不安感やうつ症状を和らげる効果は決して高くはありませんが、過呼吸や息苦しさなど呼吸器に問題が生じるパニック発作には、比較的よく効くと言われています。
半夏厚朴湯の副作用と正しい服用方法
西洋薬に比べると副作用が少なく、漢方薬は安心して飲めると言われています。実際はどうなのでしょうか?正しい服用の仕方とともに見ていきましょう。
注意すべき副作用
比較的副作用が少ないと言われている漢方薬の中でも、半夏厚朴湯は特に副作用が少ないと言われています。
しかし、これは漢方薬全体に言えることですが、安全だと思って飲み方を誤ると、副作用が起こる恐れもあります。半夏厚朴湯も飲み方を誤れば、発疹やかゆみがでる場合もあります。自己判断せずに医師や薬剤師の指示に従い、正しく服用するようにしましょう。
効果的な服用方法
みなさんが飲んでいる薬のほとんどは、食後に服用するものが多いのではないでしょうか?しかし、半夏厚朴湯に限らず漢方薬の場合は、食前に服薬することを推奨しています。
なぜかというと、漢方薬の原料は生薬(植物、動物、鉱物など自然のもので薬効があるとされるもの)のため、体内に吸収される際に食べ物と同様に吸収されると考えられています。つまり、食後に服薬してしまうと、生薬なのか食べ物なのかを体が見分けにくくなってしまい、効果的ではないということです。また、食べた物の影響も受けやすいため、空腹状態で服薬するのが望ましいのです。
しかし、実際には食後でもそこまで大きな効果の差はないと考える専門家もいるので、医師の指導のもと服用してください。漢方薬は定められた量を定められた期間、しっかりと服用し続けることが大切です。怠らずにきちんと継続しましょう。
まとめ
抗不安薬や睡眠薬など、精神を安定させる薬は副作用が怖くて避けてきたという人も、体質改善をしながら穏やかに効果をもたらす半夏厚朴湯なら安心して始められるでしょう。
半夏厚朴湯を服用したい場合は、漢方薬の処方をしている医療機関や漢方薬局、通販などでも購入することが可能です。ただし、専門家のカウンセリングをしっかりと受け、症状の程度やあなたご自身の体質に合うかどうかを見極めてもらった上で、服薬することをおすすめします。