「歯ぎしり」と聞いて、あなたはどのようなイメージを持たれるでしょうか?ほとんどの方が、歯がギリギリと音をたてる程度の軽いイメージを持たれるだけかもしれませんね。
しかしながら、歯ぎしりには、いくつかの種類が存在するのです。しかも、歯ぎしりを放置していると、様々な悪影響が生じます。さらには、歯ぎしりの原因が、未だ明確に解明されていないということも意外な事実と言えるでしょう。
そこで今回は、歯ぎしりの悪影響や原因を中心に、歯ぎしりの概要についてご紹介したいと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
歯ぎしりとは?
歯ぎしりというと、多くの方が、歯をギリギリと横にこするような動きをイメージするのではないでしょうか?
そもそも歯ぎしりとは、このようなイメージ通りの行為なのでしょうか?歯ぎしりに関する基礎知識と歯ぎしりの種類について、おさらいしたいと思います。
歯ぎしりとは?
歯ぎしりは、睡眠中に歯と歯をすり合わせて、ギリギリあるいはキリキリといった音をたてることだと、一般的には定義されています。
しかしながら医学的には、歯と歯をすり合わせて音が出ることだけが、歯ぎしりなのではありません。つまり、医学的な意味の歯ぎしりは、もう少し範囲が広いのです。
医学的な意味での歯ぎしりには、グラインディング・クレンチング・タッピングという3種類の行為が含まれます。いずれも、様々な悪影響を周りに及ぼすことになるので、これらをまとめてプラキシズム(口腔内悪習慣)と呼び、病気として把握されています。
歯ぎしりの種類
このように医学的な意味での歯ぎしりには、3種類の行為が該当します。それぞれの具体的な態様は、次の通りです。
グラインディング
グラインディングは、上歯と下歯をすり合わせて、ギリギリあるいはキリキリといった音をたてる動きのことを言います。いわゆる、一般の人が歯ぎしりと聞いて、最もイメージされる形態の歯ぎしりです。また、医学的な意味での歯ぎしりの中で、最も良く見られるタイプでもあります。
クレンチング
クレンチングは、上下の歯を噛みしめる動きのことです。つまり、上下の歯をずらすことなく、食いしばる動きのことです。無意識的に行われるので、睡眠時だけでなく、日中の起きているときにも、しばしばみられることがあります。クレンチングの最大の特徴は、音が発生しないことです。
タッピング
タッピングは、英語のタップに由来するように、上下の歯を打ち鳴らす態様の歯ぎしりです。上下の歯を打ち鳴らすことで、ガチガチあるいはカチカチといった音が発生します。医学的な意味での歯ぎしりの3種類の中では、最も少ないタイプになります。
歯ぎしりが及ぼす悪影響
歯ぎしりは睡眠中に発生することが多く、歯ぎしりをしている本人に自覚症状が無いことがほとんどです。翌朝に起床してから、家族・恋人・友人などに指摘されることで、本人が認識することが多いのです。
そして、一度歯ぎしりを指摘されると、自分では自覚できない症状なので、歯ぎしりが気になって旅行に行けなかったりと精神的に落ち込む人も散見されます。
とはいえ、歯ぎしりが及ぼす悪影響は、このような精神の落ち込みだけにとどまりません。そこで、歯ぎしりが及ぼす悪影響について、ご紹介したいと思います。
精神的な悪影響
歯ぎしりは、自分では自覚が難しい症状です。ですから、一度歯ぎしりを指摘されると、自分では自覚できない症状ですので、恥ずかしい気持ちになる人がいます。
このような人は、自分が恥ずかしいと思うだけでなく、歯ぎしりが原因で周囲の人が眠れなくて嫌な思いをするかもしれないと心配したり、思い巡らす傾向があります。最終的には、歯ぎしりが気になりすぎて、旅行に行けなかったり、対人関係にも悪影響がでることがあります。
もちろん、歯ぎしりを指摘されても全く気にしない人もいますので個人差はありますが、多かれ少なかれ自らの歯ぎしりについて、気に病む傾向があるようです。
横で寝ている人の迷惑
恋人や家族と一緒に寝ている場合、歯ぎしりの音(グラウンディング・タッピング)で、周囲の人の眠りを妨害する可能性があります。
歯がすり減る
歯ぎしりが長期間続けば、当然のことながら、多くの歯がすり減っていく傾向があります。場合によっては、歯が欠けることや、歯が折れることもあるとされています。
睡眠中の歯ぎしりの際の食いしばる力・すり合わせる力は、日中の起きている時に意識的に強く食いしばる時に比べて、その出力が大きくなるという研究報告があります。
ですから、自覚していない歯ぎしりによって、知らぬうちに歯がすり減っていたということもあり得るのです。
また、歯がすり減ることで、歯を保護するエナメル質が壊れます。すると、虫歯になりやすくなったり、神経が近くなり知覚過敏が引き起こされることもあります。
さらには、インプラント・セラミックの被せ歯・詰め物などが壊れて、歯科治療が失敗となることも考えられます。
かみ合わせが悪くなる
歯ぎしりによって歯がすり減ると、歯のかみ合わせが悪くなります。かみ合わせが悪くなると、様々な悪影響が発生することがあります。
具体的には、肩こり、偏頭痛、アゴの違和感(疲れ・痛み)、目の奥の痛みなどが現れることがあります。というのも、噛むための筋肉が頭部や首・肩にまで繋がっているために、かみ合わせが悪いと筋肉が緊張したり、筋肉のバランスが悪くなるからです。
また、かみ合わせが悪いとアゴの関節(顎関節)にも負担がかかるため、顎関節症に発展する危険性もあります。
エラが張る
人の顔の表面は、表情筋や咀嚼筋などの筋肉によって構成されています。歯ぎしりによって、強く噛みしめたりしていると、咀嚼筋など顎周りの筋肉が発達します。
これらの筋肉が発達すれば、顔も大きくなりますし、場合によってはエラが張ると言われるアゴの付け根が角ばった状態になることがあります。
また、歯ぎしりによって、かみ合わせ悪くなり、左右のどちらか一方でばかり咀嚼していると、左右のうち片方の筋肉だけが発達して、顔が歪んで見える場合もあります。
歯周病の悪化
歯周病は、歯垢の中の細菌が原因となって歯肉・歯茎に炎症が発生し、最終的には歯を支える骨を溶かして歯が失われる病気です。
歯ぎしりが、歯周病の直接的な原因となることはありません。しかしながら、歯ぎしりによって、非常に強い力が歯に加わると、歯根や周囲の骨組織に負担がかかかります。このような負担が、歯周病を悪化させる危険性が指摘されています。
歯茎の退行
歯茎の退行とは、歯茎が痩せ衰えることで、一般的には歯茎が下がるというような表現をされます。
この歯茎の退行の主な原因に、歯ぎしりが挙げられています。歯ぎしりによって、強い力が歯に加わると、歯根や周囲の骨組織にも圧力がかかります。このような圧力で、歯茎の下の骨組織が少しずつ欠損していくことで、歯茎も徐々に退行していってしまうのです。
歯ぎしりの原因
このように歯ぎしりは、身体的な悪影響にとどまらず、精神的な悪影響や周囲の人への悪影響をももたらす可能性があります。
それでは、このような歯ぎしりが生じる原因は、どのようなことなのでしょうか?歯ぎしりの原因について、ご紹介したいと思います。
睡眠について
人の睡眠では、浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)が繰り返されています。
レム睡眠は、急速眼球運動を伴う睡眠のことです。レム睡眠では、身体は筋肉が弛緩して休息していますが、脳は活動状態にあります。そして、目は閉じていても、眼球だけが急速に運動をしています。夢を見るのは、レム睡眠中だとされています。
一方で、ノンレム睡眠は、急速眼球運動を伴わない睡眠のことです。ノンレム睡眠は、脳の活動も休止状態となり、急速眼球運動も伴わないので、ぐっすり寝ている状態です。ただし、身体を支える筋肉だけは最低限の働き・緊張をしています。
睡眠中に歯ぎしりが生じるメカニズム
歯ぎしり・プラキシズムは、睡眠時随伴症のうちの一形態として位置づけられています。睡眠時随伴症は、睡眠障害の一分類で、睡眠に関連して不自然な動作・行動が生じる病気のことを言います。
睡眠時随伴症の特徴は、ノンレム睡眠の深い眠りからレム睡眠の浅い眠りに切り替わる段階で、筋肉の緊張と弛緩が上手く切り替わらないことにあります。歯ぎしりも、レム睡眠に切り替わる段階で、筋肉が弛緩せずに何らかの拍子で咀嚼筋が動くことによって生じると考えられています。
ちなみに、睡眠時随伴症には、レム睡眠行動障害、睡眠時遊行症(夢遊病)、夜尿症などが含まれます。
歯ぎしりの原因
このように歯ぎしりは、レム睡眠・浅い眠りの際に発生することが判明しています。しかしながら、睡眠中の歯ぎしりの直接的な原因は、明確に解明されているわけではありません。
歯ぎしりの原因については、様々な見解がありますが、ストレス・遺伝・飲酒・喫煙・カフェイン摂取・逆流性食道炎・睡眠時無呼吸症候群などの関与が指摘されています。
ストレス
歯ぎしりの原因は、ストレスにあるという見解が有力とされています。つまり、歯ぎしりは、溜めこまれたストレスを発散・解消するために行われていると考えられるのです。
ストレスの大きい人ほど、歯ぎしりが発生する傾向にあるとされています。日中の起きている間にストレス解消ができないと、身体や精神の防御反応として、睡眠中に歯ぎしりをしているのかもしれませんね。
遺伝
歯ぎしりの発生に、遺伝的要因を否定することはできません。というのも、歯ぎしりを自覚する人の半数に、家族や親族に歯ぎしりを自覚する人がいるという調査報告があるからです。
飲酒・喫煙・カフェイン摂取
飲酒・喫煙・カフェイン摂取は、いずれも睡眠の質を下げる要因として働きます。
飲酒は、睡眠に入りやすくなるものの、深い眠りができずに睡眠途中で目が覚めることが多くなります。
また、ニコチンには覚醒作用があり、喫煙後もしばらくは血液中にニコチンが存在しますから、喫煙は深い眠りにを妨げるのです。カフェイン摂取も同様です。
ただし、飲酒・喫煙・カフェイン摂取は、眠りを浅くして歯ぎしりを発生させやすい要因にはなりますが、歯ぎしりの直接的な原因になるかは見解が分かれるところです。
逆流性食道炎
近年の研究で、歯ぎしりとの関係を指摘されているのが、逆流性食道炎です。逆流性食道炎は、食事の後に横になったり、前かがみになった時に胃液が逆流して食道の粘膜を刺激してムカツキや炎症を生じる病気です。
逆流性食道炎の患者に睡眠中の歯ぎしりが多く発生する傾向があり、逆流性食道炎の治療薬を服用すると歯ぎしりが抑制されるという研究が報告されたのです。つまり、歯ぎしりは、睡眠中に逆流してきた胃液を、再度胃に戻すために嚥下する際の噛みしめの可能性があるわけです。
睡眠時無呼吸症候群
逆流性食道炎と同様に近年の研究で、歯ぎしりとの関係を指摘されているのが、睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に一時的に呼吸が停止することが繰り返される病気です。
睡眠時無呼吸症候群の患者の約7割に、歯ぎしりが現れているという研究が報告されています。
歯ぎしりの治療方法
このように歯ぎしりを引き起こす原因については、様々な要因の関与が指摘されるものの、直接的な原因は明確に解明されていません。
ですから、歯ぎしりを根治させる治療法は存在しないのが現状です。ですから、歯ぎしりの治療は、様々な対症療法の組み合わせで行われているのが実情です。そこで、歯ぎしりの治療法について、ご紹介したいと思います。
歯科医院の受診
歯ぎしりを指摘されたら、まずは歯科医院を受診します。歯医者によって、問診や歯の摩耗の状態、顎の筋肉の発達状態を確認・診断してもらいます。
逆流性食道炎や睡眠時無呼吸症候群の可能性があれば、内科や睡眠外来を紹介してもらうことになります。
ちなみに子供は大人に比べて、歯ぎしりが多く発生する傾向にありますが、これは子供の睡眠リズムが未成熟なためと考えられています。成長に連れて睡眠リズムが安定すると、自然に歯ぎしりが解消されることがほとんどですので、様子を見るか治療をするかの対処法は歯医者と相談して決定しましょう。
スプリント療法
スプリント療法とは、プラスティックや樹脂で作られたナイトガードやマウスピースと呼ばれる器具を、睡眠時に装着することで歯ぎしりを抑制したり、歯ぎしりが生じても歯への負担を減少させる治療法です。
マウスピースは、自分の歯のサイズや歯並びに合っていないと効果が減衰されますので、歯医者で自分の歯自体に合うように作成してもらうと良いでしょう。
このようなマウスピース治療・スプリント療法が、歯ぎしり治療では最も一般的な治療法とされています。
薬物療法
場合によっては、薬物療法も検討されます。ジアゼパムなどの筋弛緩作用のある薬剤を投与することで、睡眠中に咀嚼筋が働かないようにするのです。
ただし、このような薬剤には薬物依存症に陥る危険性も指摘されており、長期間の使用はできないため一時的な症状緩和目的でしか使えません。
かみ合わせ治療
歯ぎしりによって、かみ合わせが悪くなると、一部分の歯に過度な負担がかかることがあります。そのような場合、前述のように様々な悪影響が懸念されます。
ですから、かみ合わせを良くするために歯科矯正、つまり歯列矯正などの矯正治療を行うことも考えられます。かみ合わせを改善することで、歯ぎしりの悪影響が肩など他の部位に及ぶのを予防するのです。
歯ぎしりの予防方法
このように歯ぎしりの治療方法は対症療法がメインとなり、根治できる治療法は無いのが実情です。となると、歯ぎしりを予防できるに越したことはありません。そこで、歯ぎしりの予防法について、ご紹介したいと思います。
規則正しい生活習慣
歯ぎしりには、飲酒や喫煙、ストレスなどの関与が指摘されています。
ですから、規則正しい生活習慣を送ること、あるいは生活環境を整えることが予防対策としては重要です。
筋肉のリラックス
レム睡眠の際に、筋肉が十分に弛緩できるように、日ごろから筋肉の強張りや緊張をほぐしておくことも、歯ぎしりの対策法の一つと言えます。
具体的には、入浴などで体をリラックスさせたり、顔のマッサージをしたりすると良いでしょう。
まとめ
いかがでしたか?歯ぎしりの悪影響や歯ぎしりの原因について、ご理解いただけたでしょうか?
歯ぎしりは、誰にでも起きる可能性がありますが、自分で気づくことは容易ではありません。だからこそ、人から指摘されると、どうしても歯ぎしりが気になってしまいます。
ですから、まずは歯科医院を受診して、自らの歯の状態を良く把握しましょう。その上で、歯ぎしりの原因として関与が疑われる事柄を、一つ一つ地道に潰していくことが必要です。
歯ぎしりの直接的な原因は解明されてはいませんが、対症的に治療・対策を積み重ねていけば、十分に歯ぎしりを緩和することは可能なのです。
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