「勉強しているのに、なかなか覚えられない」や「仕事効率をもっとアップさせたい」と悩んでいませんか?最近の研究結果では、成人しても記憶力は向上できる事が分かってきています。
年齢のせいだと諦めていた方もコツを知ることで記憶力を改善することができるのです。ここでは記憶力とは何かまた、アップさせる方法について詳しくご紹介します。
記憶力について
テスト前ではいい点とれたのに、数ヶ月後に同じ問題が出ても思い出せないという事を経験した事はありますか?これは脳の中で情報が一時的に保存されているだけで、長期記憶として定着されていない為に、情報が取り出せないという事が起こっているのです。
ここでは記憶力とは何か、記憶の種類や仕組み、また記憶をする時の脳の働きについて詳しくご紹介します。
記憶力とは?
情報を忘れずに覚えておくことを「記憶」と呼び、覚えておく為に必要な力を「記憶力」と言います。以前までは脳細胞の数は生まれた時から決まっており、20代をピークに減少していくと考えられていました。しかし、最近の研究では歳を重ねても記憶に大きく関係する海馬の神経細胞を増やす事が出来ると考えられています。
また、思考や判断能力を司る前頭前野に刺激が加われば脳細胞が活性化する為、脳を使ったり変化のある生活を続けると、記憶力を保つことができるのです。
記憶の種類
記憶と一言でいっても、いくつか種類があります。ここでは、「ワーキングメモリ」、「感覚記憶」、「短期記憶」、「長期記憶」の役割についてみていきましょう。
■ワーキングメモリー
ワーキングメモリーとは短い時間の中で心の中で情報を記憶して同時に処理する能力の事です。大脳皮質の前頭連合野という部分が脳にバラバラに置いてある情報をかき集めて情報を保持し、どうするかを検討します。その為、問題を解決する時などに重要な役割をしています。
■感覚記憶
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚などの感覚器官を通じて、1~2秒のごく短い時間の情報を保持したものです。意識を向けることで、短期記憶や長期記憶へと変換することができます。
■短期記憶
短期記憶は数十秒から数分の間のものを保持する記憶のことです。この記憶は復唱しない限りは自然と消滅してしまいます。この短期記憶は右脳にある海馬という部分が司っており、買い物リストを覚えてメモをとる時などに使われます。
■長期記憶
長期記憶は半永久的に保存される記憶のことで、友達の名前や出身地などの情報が保持されます。短期記憶で必要と判断されたものや印象的なものが長期記憶に変換されます。この記憶の定着は大脳皮質という場所で行われています。
記憶の仕組み
人は情報が入ってくるとまずは感覚中枢で情報を捉えて、感覚記憶します。この時に意識を向けたものに関しては、短期記憶へと移行されて、繰り返し行う事で長期記憶へと変換されます。海馬という部分で記憶出来る事は新しい記憶のみで、そののち印象的なものや必要なものは大脳皮質へと移動して長期記憶されると考えられています。
海馬は長期的な記憶はしないものの、情報の選別など長期記憶を作り出す際の重要な役割を担っています。そして、記憶を思い出す時には、側頭葉内側面,前頭前野、頭頂葉などの領域が使われて情報を引き出します。中でも自分の意志で必要に応じて記憶を呼び出して問題を解決していくワーキングメモリーは前頭前野が大きく関係しています。
記憶力の最大のポイントとなっているのは、脳の海馬という部分です。この部分の機能が低下していると、記憶の整理が十分に機能せずに情報を引き出すことが難しくなります。海馬の神経細胞を増やす事、前頭前野の機能を高める事、脳のネットワークを活性化させる事が記憶力の向上に繋がると言えます。
脳の役割
記憶をする時に活躍する部分は「海馬」、「大脳皮質」、「前頭前野」、「扁桃体」などが挙げられます。これらが記憶に関してどんな役割を担っているか見ていきましょう。
海馬(かいば)
私達は1日の間に様々な出来事に遭遇してそれらを記憶しています。例えば、今朝ご飯に納豆とお味噌汁を食べた事や友達と一緒に映画を見た事など、日常的な情報や勉強して覚えた情報を記憶します。
このような情報の記憶は、タツノオトシゴのような形をしている海馬という部分で一度生理整頓されます。この海馬の貯蔵庫は一時的に情報を記憶するだけなので、容量が小さく覚えておけるのも最大で1ヶ月ほどと言われています。
海馬はとても繊細で壊れやすく、酸欠とストレスにとても弱いです。例えば、空気が足りなくなった場合は、海馬の細胞が壊死していき、ストレスがかかれば精神的な病気にかかり脳機能が低下していきます。海馬の機能が低下すると、昔のことは覚えていても新しい事は思い出すことが出来ないという状態が起こります。PTSD(心的外傷後ストレス障害)やアルツハイマー病で大きな影響を受けるのが海馬だと言われています。
大脳皮質(だいのうひしつ)
海馬で記憶した新しい情報の中から、必要なものやインパクトの強いものは大脳皮質に送られて長期記憶として保存されます。この移行作業がうまくいかないと覚えた記憶もすぐに忘れてしまいます。
前頭前野
大脳皮質の中に前頭連合野という部分があり、この部分でワーキングメモリを行います。脳に散らばった様々な情報を集めて自分の意志で組み立てて実行する脳の司令官とも言えます。
扁桃体
海馬の近くには、扁桃体と呼ばれる神経細胞の集まりがあり、情動反応の処理と記憶に関係する役割を担っています。喜怒哀楽の感情はこの扁桃体の器官が影響している為、感情を伴う情報というのは長期記憶されやすくなります。
例えば、楽しかった誕生日の思い出や辛かった受験の失敗など、楽しかった事や苦かった経験は簡単に忘れることが出来ません。このような強い感情を持ったものはしっかりと記憶されやすくなります。
記憶力をアップする方法
記憶をする仕組みや脳の働きが理解できたところで、記憶力をアップさせる為にはどのような事をするべきかについてご紹介します。記憶力を高める為の効率的な勉強法や日常生活の過ごし方についてご紹介します。
環境刺激を与える
記憶の情報処理や短期記憶は海馬という場所で行われ、この部分を活性化させると記憶力がアップします。海馬が活性化する最も効果的な方法は環境刺激を与える事です。あるマウス実験で、1つの箱には何も置いてない環境を用意し、もう1つの箱にはたくさんの遊び道具を入れた環境を用意しました。
この2つの箱にマウスを入れて、マウスの脳を調べてみたところ、遊び道具を入れた方が海馬の神経細胞の数や増殖能力が高かったと報告されています。また他にも、複雑に入り組んだロンドンのタクシー運転手の脳の海馬は通常よりも大きく、職歴が長いほど神経細胞も多いと言われています。ロンドンの複雑な道を暗記するのは数年かかるといわれており、運転手になる試験も難しく合格するのに平均3年はかかると言われています。
このような多種多様な環境を用意することで脳の成長が期待できます。文章だけで暗記しようとするのではなく、図やイラストなどを用いたり、1つの場所で暗記しようとするのではなく、場所を変えるなどして環境や方法に変化を加えて脳を刺激しましょう。
感情的な刺激を与える
脳は喜怒哀楽などの感情が情報に加わると、覚えやすくなります。トラウマや感動した体験などの強い感情をもつと長期記憶されやすくなるのです。
勉強している時に感情をつけるのは非常に難しいですが、例えば歴史の勉強として起こった場所に実際に行って、目で見て感動したりすることで記憶として残すことが出来ます。
やる気
感情を司る扁桃体が活発化すると記憶力がアップします。学習効果や記憶力をあげる時に一番必要な感情はやる気です。両親からやりなさいと無理やり押し付けられてイヤイヤやったとしても学習効率は上がりません。また、海馬はストレスに弱いため、プレッシャーをかけられた状態で行っても効率は悪くなります。
「好きこそ物の上手なれ」ということわざもあるように、興味のある事は誰でも上達が早いのです。自分の興味の対象のものは強く記憶として残りやすいと言うことができます。
また、人は何かに対して興味がでると興奮してノルアドレナリンを作ります。このノルアドレナリンが学習中に分泌されると神経細胞ネットワークがスムーズに作られて長期記憶されやすくなります。自ら学びたいという気持ちを持つことが非常に重要です。やる気が出ないけどやらなければいけない状態の時は、下記のやる気を出す方法を参考にして実践してみましょう。
知的好奇心を刺激する
人にはもっと知りたいや学びたいという知的好奇心が備わっています。知的なことを行って、この知的好奇心を刺激すると、もっと頑張ろうというやる気が出てきます。そして、何かを達成した時には、脳から幸福感が得られる物質が分泌され、これにより頑張る気持ちにさせられます。知的な事を行うようにして、気持ちを高めましょう。
作業興奮
無理やりでも始めてみると、やる気が出ることがあり、これを作業興奮と呼びます。始めはイヤイヤ始めたにも関わらず、いつの間にか熱中して時間が過ぎていたという事があります。作業興奮は体を動かす事が重要で、体を動かすことで少しずつやる気がでて次第に集中できるようになるのです。
脳科学的にはやる気を生み出す部分は脳の側坐核という部分で作られており、この部分はある程度の刺激がこないと働かないと言われています。刺激するにはやり始めてみることが重要なのです。
始めからたくさんの事をやろうとしてはいけません。まずは、3分~10分程度で終わるものをウォーミングアップとして用意します。数分で終わることを繰り返すことで脳が刺激され、やる気スイッチを押すことが出来るようになります。
復習する
記憶には忘却曲線と呼ばれる記憶と忘れる時間があります。記憶は4時間で約50%、24時間で約70~80%忘れるという報告があります。勉強したことや大事な事を覚えておく為には記憶を定着させる必要があり、長期記憶に変換するには何回も繰り返し覚える事が重要になります。
最低でも1ヶ月に1回は復習しないといけません。たった1回だけの学習では忘れられてしまう可能性が高いのです。また、映像や音楽、言葉など様々な事に関連づけて記憶しておき、この関連付けの数が多ければ多いほど記憶を呼び出しやすくなります。
特に耳や口手を使った刺激は記憶に残りやすい為、覚えておかなければいけない事は、重要なポイントを書き取り、何度も声に出して読んで耳から覚えることが効果的です。
運動する
海馬を刺激するには運動も効果的です。激しい運動をする必要はなく、ウォーキングやジョギングなどの軽い有酸素運動を1日10分するだけで刺激を与えられます。運動を2週間続ければ脳神経が増え、6週間以上続けると、認知機能が上がると言われています。
また、運動の強度を高めると海馬だけでなく他の脳の部分が刺激されて集中力や判断力が上がるようになります。
質の高い睡眠をとる
睡眠の役割は、体を休めて疲れを取るだけでなく、記憶を固定するという重要な役割があります。人の睡眠にはレム睡眠と呼ばれる体を休める為の睡眠とノンレム睡眠という脳を休める睡眠があります。この2つ種類を交互に繰り返して朝を迎えるのです。
レム睡眠の時には脳の一部(扁桃体や海馬)が活動しており、1日起こったことや暗記した事を忘れないように脳に定着させたり、情報を整理する処理を行っています。また、ノンレム睡眠中には大脳皮質の神経細胞(ニューロン)の繋がりや再構築などが行われています。
記憶能力を十分に引き出す為には質の高い睡眠を取ることが重要で、個人差はありますが6時間~7時間半は必要だと言われています。また、勉強した直後にテストを行うよりも、勉強して睡眠を取った後の方がテスト結果が良かったという実験結果もあります。これは睡眠により情報の整理が上手くされて記憶の質が上がったと考えられます。
寝る前にインプット
睡眠中に記憶が整理されて定着されるため、寝る直前に得た情報の方が朝の情報よりも定着率が高いと言われています。その為、朝行った勉強も夜に復習することで定着率を挙げることが出来ます。
寝る前の暗記にもコツがあり、何時間もかけて50個の英単語を覚えるよりも、ある程度意識を向けながらも多くの英単語をザッと眺めるほうが定着効果があると言われています。
情報をシンプルにする
脳は安定や一貫性を求める性質があり、矛盾した情報があると脳が混乱し、記憶力の低下を招きます。例えば、語学を勉強しようと中国語とフランス語を2年間かけて同時に勉強するよりは、英語に1年中国語に1年かけて勉強した方が情報がシンプルになり学習効率が上がります。
他にも似ているテキストを複数使って記憶すると、定義や表現方法がバラバラな為混乱してしまい記憶力の低下を引き起こしやすくなります。その為、勉強時に使用する教材は1冊に絞って学んだ方が効率的と言えます。
口や手を動かす
人の神経は口や手先に集中しています。その為、手や口を動かしながら行うと脳全体が活性化されて集中力、思考力、判断力、記憶力などがあがります。勉強方法は音読や書き取りが効果的です。
重要なポイントとなる部分には赤でマークをつけて、ノートに何回も書き写して覚えます。また、音読ができない環境にいる場合は、ガムを噛みながら勉強するのも効果的です。
スポーツ選手がガムを噛みながら試合をしているのを見たことある人もいると思います。これは脳を活性する効果があるので取り入れていると言われています。ガムを噛みながら勉強を行うだけでも効率的なので、是非取り入れてみましょう。
記憶力をUPさせる食べ物
記憶力をUPさせるには、脳のパフォーマンスをあげられるような栄養素を摂取することも重要なポイントです。仕事や勉強など頭を使う場面が多い時は、特に食生活に気を遣いましょう。ここでは、記憶力を向上させる食事内容についてご紹介します。
低GI食
脳にとっての唯一のエネルギーはブドウ糖です。これは炭水化物に多く含まれて居ます。炭水化物を摂取しないと頭がフラフラしたり、集中できなくなるため、脳のパフォーマンスをあげるにはとても重要な栄養素です。
炭水化物は欠かせない食べ物ではありますが、食べ過ぎると血糖値が一気に上昇します。そして、内臓がインシュリンというホルモンを大量に作る必要が出てくるため、脳を含む他の部分の活動が低下します。
これを防ぐには、食事の時は低GI値の食べ物を取るようにするのが効果的です。GI値(グリセミック指数)とは、炭水化物を摂取した時に体の中で糖に変わるスピードを表したものです。GI値が低いほど血糖値が急激に上がるのを防ぐ事ができます。その為、低GI値の食べ物を摂取することが、記憶力のUPに繋がります。
低GI値の食べ物
炭水化物:春雨、そば、小麦全粒粉パン、玄米
野菜:レタスなどの葉類、キノコ類、大根、かぶ、ピーマン、ブロッコリー
その他:ナッツ類、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター、りんご、いちご
DHAを含む食べ物
DHAには、脳内の神経ネットワークを作る手助けをする働きがあります。DHAは私達の体に必須の脂肪酸で、人間の脳や目の網膜、心臓、胎盤、精子、母乳などに大きく関係しています。また、血流改善効果もある為、脳に必要な栄養素や酸素が行き渡るようになります。
このDHAは大切な栄養素の1つではありますが、体内ではほとんど作られていない為、食事を通して摂取することが重要です。DHAが多く含まれている食材は魚類で中でも青魚に多く含まれています。
DHAは酸化しやすい為、焼き魚にするよりも刺身やお寿司など生魚として摂取するのが効果的です。魚が苦手な人はDHAサプリなどを積極的に摂取して補いましょう。
抗酸化作用のある食べ物
頭を使うと脳の中で酸素の消費量が増えて活性酸素が増えます。この活性酸素とは酸素の一部から化学変化により生産されるのもので、少量であれば細菌やウイルスの撃退作用がある為、体にとっていい働きをします。
しかし、脳を使いすぎて活性酸素が増えすぎると、細胞にダメージを与え始めます。こうなると脳細胞は活性酸素のダメージを受けやすくなり、老い始めます。この活性酸素を除去するのには抗酸化成分が必要で、中でも強い抗酸化効果があるのがベリー類です。抗酸化作用のある食材を摂取することは、脳のダメージを減少させるだけでなく、生活習慣病、がん、動脈硬化予防にも効果的です。
抗酸化作用のある食べ物
アボガド、トマト、バナナ、緑黄色野菜、大豆製品、にんにくや生姜などの香味野菜、ナッツ類、ブルーベリー、いちご、りんご、みかん、チョコレート、カカオ、赤ワイン、緑茶、ココナッツオイル、ごま
不飽和脂肪酸
ココナッツオイルやオリーブオイルなどのオイル類は普段から摂取していると、知能レベルが上がるという研究結果があります。摂取量の目安は1日大さじ2杯程度です。サラダのドレッシングに使ったり、普段の食事の調味料として取り入れてみましょう。
ルテイン
情報収集の8割~9割は視覚情報からです。その為、脳を元気にするだけでなく、目の健康状態にも気を遣うことが重要です。多くの情報量を取り込む場所の働き悪いと記憶力もアップしません。
目におすすめの成分は「ルテイン」です。このルテインは物を見るときに重要な役割を果たし、また紫外線やブルーライトから目を保護する働きもあります。
ルテインが多く含まれる食材
ほうれん草、カボチャ、インゲン、ブロッコリー、グリーンピース、ケールなどの緑黄色野菜に多く含まれています。
おわりに
日常生活を少し気をつけるだけで、記憶力を向上させる事が出来ます。
仕事の効率が悪いと感じている方や、受験対策など記憶力を向上させたいと思っている方は、今回の記事でご紹介した生活習慣に気をつけてみてください。
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