皆さんのご家族や友人などで「うつ病」と診断され、何度も入退院を繰り返した方はいらっしゃいませんか?実は、このうつ病、現代医学で解明されていない領域が多く、治療方法がきちんと確立されていない病気なのです。
「じゃあ、私はもう治らないのね」と思う方もいるかもしれませんが、そんなことは決してありません。楽な道のりではありませんが、自分を信じて一歩一歩歩んでいけばきっと良くなります。
うつ病とは
まずがうつ病について知っておきましょう。
日本のうつ病
うつ病とは「心の病」です。では、いったいどのような状態が「うつ」なのでしょうか?まずは、広辞苑(岩波書店・第一版)でその定義を確認しておきましょう。
「うつ(鬱)」とは、
「気の塞ぐこと。思いの結ぼれること。心の晴れやかでないこと。」とあります。「結ぼれる」という言葉は「結ぼる」の口語ですが、現代日本ではすでにあまり使われていない表現なので、こちらも同じく確認しておきましょう。
辞書の定義だけで、「うつ病」をイメージするのはなかなか難しいので、上記「うつ」の定義をわかりやすく要約して、現代日本語風に書き直してみましょう。
「気分が滅入ってしまって、心がすっきりしない。その上、悩みが解決せず、さらに新しい悩みがどんどん積み重なって、結局、自分ではどうすることもできない状態となって、自分の『心』が固まり、最終的には『自分』という心の中の『殻』にある高い壁の内に塞いでしまう、つまり、引きこもってしまう」
ということなんです。
つまり、日本のうつ病の定義は、人の心の内的作用を意味しているのです。
英語のうつ病
英語では、うつ病のことを「depression」あるいは「clinical depression」と言います。こちらも、英英辞典で定義を確認してみましょう。
depression n. the state of being depressed:
depressed adj. sad and without enthusiasm or hope(Oxford Advanced Learner’s Dictionary – New Editionより)
「depression」は「『depressed』である状態」、「depressed」は「悲しくて、熱意も希望もない」(筆者訳)と定義されています。つまり、英語の「depression」は、「悲しい、熱意も希望もない状態」を現しているのです。
英語の定義は、名詞の「depression」ではなく、形容詞である「depressed」に記載されています。ここからは筆者の憶測になりますが、まず何らかの原因によって「depressed」という人の状態を表す単語が現れ、そのあとに名詞の接尾辞である「-ion」を付与した「depression」という「うつ病」を表わす英単語ができたのかもしれませんね。それにしても、この単語、一体どのような背景で生まれたんでしょう。ただし、これはあくまで両辞書の定義に基づいた筆者の局地的なー推測であり、言語学的な観点から実証した論拠ではありませんので、その点だけはご理解ください。
話が少し横道にそれてしまいましたが、英語のうつ病の定義は、人の心的作用を外側から観察して叙述しているのです。
いずれにしても、患者さん本人にとってはきっと気持ちの良い定義ではないでしょう。心奥に潜む葛藤に苦しんでいる本人にとっては、辞書でどのように定義されようが、自分はその苦しみからは解放されないからです。うつ病は、本人にとって本当に深刻な(clinical)心身状態であり、それほど辛い病気なのです。お気づきの方もいるかもしれませんが、日本では「うつ病」を「何らかの心的作用」と定義しているのに、西洋医学にもとづいた「対症療法」として治療をしているという現実です。
うつ病の症状
うつ病の症状は、人によってさまざまです。「自閉症となって自分で作った心の中の『殻』に閉じこもり、自分の部屋から出られない」、あるいは、さらに症状が悪化して「殺傷事件または自殺事件などに進展してしまう」と、新聞やテレビのニュースなどで皆さんの目に止まることになります。
身体的な症状を挙げると、偏頭痛や嘔吐、激しい腹痛、不眠症、幻覚、耳鳴りなど、とさまざまな症状を引き起こします。
偏頭痛
偏頭痛は、ときに血中を流れる血流が脈打つかのように頭がズキズキと痛み、その痛みは耐え難いものです。痛みの程度は、そのときによって異なりますが、症状が深刻なときは仕事をするどころか、起きていることもままなりません。
そこまで症状が重いと、アスピリンなどの鎮痛剤を服用して眠るしか方法がないときもあります。なんとか眠りにつくことができて、翌朝頭の中がスッキリしていれば、一安心。翌日は、普通に生活することもできます。その症状が幾日も継続する場合は、心療内科の医師に相談した方が良いでしょう。
腹痛
また、女性の方に多いのが、激しい腹痛です。特に、生理のときなどは我慢の限界を越えるほどの疼痛を伴います。男性であっても、薬剤の副作用のため、胃や大腸・小腸といった消化器系の内臓に負担がかかりすぎるとこの症状が見られるようです。
毎日のように、下痢や便秘に悩まされます。症状がひどい場合は、早めに医師にご相談ください。
不眠症
不眠症は、今まで取り上げた中でも特に深刻な病状です。症状が深刻になると、数日眠りにつくことができない場合もあります。
「夜、なかなか眠りにつくことができず、やっとの思いで眠ったとしても、眠りが浅くて十分な休息を取ることができない」といったことがよくあります。その結果、翌朝起きるときにはひどい倦怠感を感じて「前日の疲れが取れない」ことになります。
そのため、「昼間の時間帯に仕事をしているときにも気力が続かなくて、仕事に集中できない」などの症状が出て、日常生活に支障をきたします。
その他の症状
また、適切な治療を受けずに仕事や家事、育児などで無理をすると、症状はさらに悪化の一途をたどります。嘔吐や耳鳴り、手足のしびれ、目や頬など顔の一部の顔面神経痛、内臓疾患など、自律神経系に何らかの異変(病変)が生じます。
このような症状が出てくると危険信号です。速やかに医師に診察を受けましょう。
うつ病治療
次はうつ病の治療方法について紹介します。
日本のうつ病治療
日本における一般的なうつ病治療は、精神科や心療内科と呼ばれる病院で対症療法を中心として行われています。
基本的には、専門の精神科医が診察・診断して、重症の場合は入院、比較的軽い症状の場合は通院で治療することになります。入院・通院どちらの場合でも、精神疾患があると診断されると、薬を処方されてその処方に従って薬を服用することになります。
薬には、即効性があるので比較的早く症状が治まり、一見改善されたかのように見られますが、対症療法であるため、「患者さんの心の痛み」に触れることなく、化学的に症状を抑制することで改善するのです。
しかし、薬は化学薬品なので、当然副作用もあります。例えば、「依存性」。つまり、薬の服用を止めてしまうと、「精神的に落ち着かない、イライラする、なかなか寝つけない、眠りが浅い」などといった症状が再発して、逆に病状が悪化してしまいます。
したがって、薬の服用を中止することが難しくなる場合が多く、その薬に依存することとなります。その結果、常に薬を服用していないと生活できなくってしまいます。つまり、薬剤を服用せずに生活していくことは困難となり、薬なしでは生きることすらままならなくなってしまいます。さらに、薬の種類によっては、その他の臓器に負担をかけてしまう危険性もあります。
また、入院の場合でも、当然薬は服用しなければなりませんし、その時点で、担当医師に「正常な社会生活を送れない」と診断されたことになります。そのように診断された患者さんの苦しみは、良くなるどころか悪化の一途をたどっていきます。
自我という堅い殻の中に、完全に引きこもってしまった患者さんと接することは、決して容易な仕事ではありません。入院治療の場合、ソーシャルワーカーと呼ばれるカウンセリング担当者がカウンセリングを実施して患者さんの状態を把握して、担当医師や看護師の方々と協力して患者さんの症状を薬や病院内にある小さな擬似的コミュニティーを通じ、少しずつ、少しずつ信頼関係を構築していって患者さんの社会性をもう一度取り戻すべく人間関係を構築できるようにコミュニケーションをはかっています。
患者さんにとって、入院先の病院は一つの社会です。そこには、喜怒哀楽さまざまな感情が渦巻くコミュニティーが存在し、一つの社会が形成されています。患者さんの中には、一生死ぬまで退院できない患者さんもいいる中で、医師や看護師、ケアワーカーの方々は、うつ病にかかってしまった患者さんの社会復帰を願いながら、その背中を少しずつ、少しずつ押してくれているのが現実なのです。
したがって、日本の心療内科のうつ病治療は、おもに英語の「depressed」に対する対症療法に重きを置いているのです。
中国医学(中医)におけるうつ病治療
これに対して、中国医学(中医)におけるうつ病治療は、人の身体全体としてまったく異なる観点からうつ病を治療します。中国医学(中医)では、うつ病を「心の均整(バランス)が失われた状態」、つまり「積み重なったストレスや不安などといった負の感情が過剰に蓄積されていった結果、患者さんの心と身体のバランスが崩れて心神喪失の状態に陥っている」と考えます。
そこで、中国医学(中医)では、患者さんの失われた均整を取り戻すことに主眼を置いて治療にあたります。「何らかの原因でうつ病に苦しんでいる患者さん自身が持っている自然治癒力を高めることにより、うつ病を治す」という方向で治療が施されます。
その治療で用いられるのが、心理指導(カウンセリング)、漢方薬、鍼灸治療です。西洋医学のように、中国医学(中医)でも心理指導や薬は用いられるのですが、鍼灸による治療については決定的に異なります。
中国医学(中医)の世界では、人の身体内に目に見えない経絡(経脈と絡脈の総称)というネットワークが張り巡らされ、それぞれがお互いに繋がっています。そのため、どこかに異変が起こると、その部位に関連するその他の部位までにも悪影響を及ぼします。
例えば、右肩に痛みがある場合、肘や胸などに触れたり、動かしたりするだけで、右肩に激痛が走ることもあります。したがって、中国医学(中医)では、うつ病によって鬱血した部位に関連するツボを鍼灸で刺激し、その鬱血を少しずつ解消していく治療法を取ります。すなわち、鍼灸で身体の奥にあるツボを刺激して「塞いでしまった気血を滞りなく流れるようにする」ことでうつ病を治療するのです。
中国医学(中医)では、このようにして広辞苑の定義にある「うつ」病を基本として治療します。鍼灸を指す痛みはありますが、辛い症状を改善しているのだと思えば、その痛みは我慢できます。
また、鍼灸治療には依存性のような副作用もありませんので、安心かつ安全です。ただ、薬のように即効性がない場合もあり、「治療効果が現れる」、あるいは「自分自身で治癒を実感できるようになる」までには、ある程度の時間が必要です。
うつ病が再発⁉︎
心療内科に入退院を繰り返す患者さんが多い現実ですが、それは本当にうつ病が再発したのでしょうか?言い換えると、患者さんは、以前に入院したのち、本当に治癒して心療内科を退院されたのでしょうか?
残念ながら、答えはNoです。もちろん、中には完治して退院された患者さんもいますが、そのような患者さんは、入退院を繰り返したりせずに社会復帰して普通の生活を送っています。うつ病が再発して入退院を繰り返している患者さんは、「うつ病が完治していなくとも、薬の効能などや入院治療のおかげで入院時よりも比較的良好な精神状態に戻った」と診断、「再び、社会生活を営むことができる」と判断されて、退院しているのです。
つまり、必ずしも「うつ病の原因となった根本的な病因を取り除くことができた」から退院したのではないのです。
そのように退院した患者さんは、結局のところ、自分の心の内にある葛藤を解決できずにそのまま社会の荒波へと戻っていくことになります。退院した患者さんは、仕事を始めたり、家事や育児に、と奮闘します。一見、普通の生活を送っているかのように見えますが、そのような生活の中でも、未解決の葛藤を抱えながらの生活です。仕事や育児・家事などで徐々に蓄積されていく不安感やストレスが患者さんの心を蝕んでいき、その心の許容量を越えたときにまたもや「うつ病が再発した」かのように見えるのです。
うつ病が治癒していない患者さんが早期退院する要因には、大きく分けて病院側の事情と患者さんの事情の二つが挙げられます。病院側には、日々新しい患者さんが来院し、重症と診断される患者さんは入院するのでが入院患者数が増加する一方、入院患者の受入数には限度があります。
また、患者さん側には、家庭の事情や社会復帰などのために一刻も早い退院を患者さん自身が願っていることもあります。したがって、必ずしも病院あるいは患者さんのどちらかに原因があるとは限らないのです。それどころか、病院も患者さんも精一杯頑張っている場合が多いのに、「うつ病が再発した!」とされてしまうケースが頻発してしまっているのです。
心の健康のために
では、そのような患者さんは一体どうしたら良いのでしょうか?思わず、途方に暮れてしまう方もいるかもしれませんね。でも、心配はご無用です。まずは、患者さんご自身が、日常生活の中でできることをしましょう。
例えば、「規則的な生活をする」、「適度な運動を心がける」、「正しい食生活を送る」など、バランスを崩してしまった身体を元に戻すために必要な生活習慣を一つ一つ取り戻していくケアや心がけを毎日継続していくのです。朝早く起きて近所を散歩するのも良し、スポーツジムに行ってトレーニングを楽しむも良し、日頃から食生活に気を配り、ときおり外食して食事を楽しむのも良し。
そうやって、少しずつ本来の自分を楽しみながら取り戻していけば良いのです。少し気分がすぐれないなあと感じたら、山に行ってハイキングなどして自然に触れてみましょう。豊かな自然の恵みがあなたの苦しみをきっと包んでくれます。そのようにして、本来の自分を取り戻しながら、自分の心の奥底に潜んでいるうつ病の根本的な原因と少しずつ、少しずつ向き合っていきましょう。
最後に
現代医学では、日本人には聞き慣れない『中西結合』という言葉がすでに存在しています。西洋を中心に進歩した科学技術を応用して、中医でいう経絡を治療する方法が確立しつつあるのです。『中西結合』の意図するところは、自然科学を基礎として発展した西洋医学と悠久の歴史の蓄積をそなえもつ中国医学の歴史を結びつけて、さらに良い医学を志して新しい医術を目指すところにあります。
最後に、最大の難関が残っています。お気づきの読者もいらっしゃるかもしれませんが、まだ心の深淵に潜んでいる心の病となった原因には触れられていないのです。残念ながら、この問いに対する唯一無二の正答はありません。なぜなら、患者さん一人一人に「うつ病」となった原因があるため、一つの正解は存在しないのです。したがって、まずは患者さん自身がその原因と向き合う力をそなえる必要があります。
つまり、患者さんそれぞれに見合った心のケアを患者さんそれぞれに施す必要があるのです。ここでも心配ご無用!あなたのそばにも、あなたを助けてくれる方がきっといるはずです。勇気を持って、はじめの一歩を踏み出してみてください。
関連記事として、
これらの記事も合わせてお読みください!