上咽頭癌の症状とは?原因や治療法、生存率や予後について知ろう!

上咽頭癌と言っても、「喉頭癌じゃないの?」とか「上咽頭ってどこにあるの?」と言う人が多いかもしれません。食道癌・胃癌・大腸癌・乳癌などと違って、日本では、まれな癌です。1年間に500人程度しか発症しません。でも、台湾・中国南部・東南アジアでは発症頻度が高くなっています。

発症比率は、男性3に対して女性1で、男性の方が発症しやすいようです。40~70歳に発症することが多いようですが、20代30代でも発症することがあります。

癌は、だれにでも、身体のいたるところに発生する可能性があります。私達の身体が、そういう仕組みになっているのです。ですから、日本ではまれな上咽頭癌でも、いつ、だれに発生するか、わかりません。

上咽頭癌の原因・症状・治療法について、お伝えします。

上咽頭癌とは?

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咽頭とは、消化管の一部であると同時に、気道の一部にもなっている部位です。咽頭は鼻腔と口腔の後ろ側にあり、下の方で食道につながります。ただし、下の方の前部分は喉頭にも通じています。この咽頭に発生する癌を、「咽頭癌」といいます。

咽頭癌は、発生する場所によって、「上咽頭癌」「中咽頭癌」「下咽頭癌」の3種に分かれます。発生する場所により、現れる症状が違います。

[上咽頭とは、どの部分?]

上咽頭

上咽頭とは、鼻腔の突き当りの部分です。口を大きく開けると、いわゆる「のどちんこ」が見えますね。これを、「口蓋垂(こうがいすい)」といいます。口蓋垂と口蓋扁桃(いわゆる扁桃)の上後方が上咽頭と呼ばれています。「頭蓋底」という脳の底の部分を支えている頭蓋骨を隔てて脳に接しています。

上咽頭の上方は脳、上方外側は眼球、外側は耳管咽頭孔(じかんいんとうこう)、前方は鼻腔があります。上咽頭に癌が発生すると、視覚・聴覚・鼻・脳が影響を受けます。

上咽頭の役割は、呼吸と耳の圧力調整です。

中咽頭と下咽頭

ちなみに、中咽頭とは、上咽頭の下方部分で、軟口蓋で分かれます。中咽頭には扁桃腺と舌根部(舌のつけ根)があります。下咽頭は、中咽頭の下から食道までの部分です。喉頭は、下咽頭の前方にあります。

中咽頭の役割は、呼吸と発音、物を飲み込むことです。下咽頭の役割は,物を飲み込むことです。

[上咽頭癌とは・・・]

「上咽頭癌」とは、上咽頭の周辺に発生する悪性腫瘍です。低分化型扁平上皮癌が多く、次に悪性リンパ腫が多いようです。高分化型扁平上皮癌や腺癌は、あまり発生しません。

低分化型扁平上皮癌は遠隔転移しやすいと言われます。上咽頭癌の場合も、頭頸部から離れた肺・骨・肝臓に転移することが多くなっています。

上咽頭に発生する疾患で、よく知られているのが「アデノイド」です。アデノイドは「腺様増殖症」といいます。咽頭扁桃が病的に増殖・肥大し、鼻がつまったり、注意力散漫になったりします。腫瘍ではありません。手術で切除して完治できます。

[上咽頭癌の原因]

上咽頭癌の発生には、エブスタインバール(EB)ウィルスが関係しているようです。

EBウィルスは、一般的なありふれたウィルスで、日本人にも感染者が多いと言われます。しかし、ほとんどが不顕性感染者で、病気を発症することはまれです。台湾や中国南部にはEBウィルス感染者が多いので、上咽頭癌の発生率が高くなっていると言われますが、EBウイルス感染と上咽頭癌発生の間に、何か誘因が存在すると考えられます。

台湾や中国南部、東南アジアで上咽頭癌発生が多いのは、伝統的な食物「塩蔵魚」のせいだと言います。特に乳幼児期に食べることが、上咽頭癌発生リスクを高めるようです。

一般的に、タバコ(喫煙)・アルコールの摂取過多・熱い飲み物の摂取は、上咽頭癌発生リスクを増大させると言われます。また、ホルムアルデヒドもリスクを高めることが、確認されています。

ちなみに、中咽頭癌と下咽頭癌の場合も、喫煙やアルコールの過摂取が癌発生リスクを増大させているようです。

上咽頭癌の症状は?

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咽頭癌は、どの部位に癌が発生しても、初期症状がほとんどありません。自覚症状が出た時には、癌が進行していることが多いと言われます。

上咽頭癌・中咽頭癌・下咽頭癌は、それぞれ症状が異なります。しかし、「喉が炎症を起こして痛い」「喉にしみる」「頸部リンパ節腫脹」という症状は、咽頭癌に共通するものです。

上咽頭は、鼻腔・耳管・眼球・脳に接しているので、癌が発生すると、これらの部分に症状が現れます。

[上咽頭癌の鼻の症状]

上咽頭癌が発生すると、鼻がつまります。あるいは、鼻腔周辺に圧迫感があります。鼻で呼吸しにくくなり、イビキをかくこともあります。

鼻血が出やすくなります。鼻孔から血液が流れ出すことがあります。また、鼻をかんだ時に、鼻汁に血液が混じることがあります。鼻汁は膿状で、悪臭がします。

副鼻腔癌・鼻腔癌の症状とよく似ています。

[上咽頭癌の耳の症状]

癌で耳管の開口部が塞がれて、耳がつまったような感じがします。耳鳴りがしたり、音が聞こえにくくなったりします(難聴)。難聴は片方の耳だけに起こることが多いようです。

「突発性難聴」や「滲出性中耳炎」の症状と似ているので、耳鼻科で誤診されることもあります。

[上咽頭癌の脳神経系の症状]

上咽頭は頭蓋底を隔てて脳と接しています。上咽頭癌が発生すると、脳神経を圧迫したり、脳神経を侵したりします。そのため、様々な異常が引き起こされます。

①視神経の障害

視神経を圧迫したり、侵したり、傷害を起こすと、視力が落ちます。

眼球を動かす外転神経に障害を起こすと、物が二重に見えます。

②三叉神経の障害

三叉神経は、目の神経・上顎神経・下顎神経の3つに分かれて、運動と感覚を司る混合神経です。脳神経の中では、最大の神経です。三叉神経に障害が起きると、顔に疼痛が生じます。

③脳神経の麻痺

上咽頭癌により脳神経が障害されて、麻痺することがあります。脳神経が麻痺すると、頑固な頭痛が続いたり、神経痛が生じたりします。

[頸部のリンパ節の腫脹]

上咽頭癌は、頸部リンパ節に転移します。癌がリンパ節に転移すると、リンパ節が腫れます。これを「リンパ節腫脹」といいます。

比較的早い段階で、耳の斜め下後方にあるリンパ節に転移し、腫れてきます。上咽頭癌が進行すると、頸部の他のリンパ節にも転移し、リンパ節腫脹が見られるようになります。

頸部リンパ節腫脹(腫瘤)は、上咽頭癌の特徴的症状です。しかし、頸部リンパ節腫脹だけでは、上咽頭癌と診断することはできにくいようです。診断には、腫れているリンパ節の生検が必要です。

[中咽頭癌と下咽頭癌の症状]

中咽頭癌の症状

扁桃腺が炎症を起こして腫れ、痛みます。食物が飲み込みにくくなります(嚥下困難)。食物を飲み込むと痛みを生じることもあります(嚥下痛)。

頸部リンパ節が腫れます。

下咽頭癌の症状

自覚症状がなかなか出ないので、進行するまで気づかないことが多いようです。咽頭痛や、食物を飲み込む時に違和感があります。焼けつくような嚥下痛が生じるようになります。時には、食物を飲み込む時に、耳の奥が痛くなります。

下咽頭癌が喉頭に浸潤すると、声がかすれたり、呼吸しにくくなったりします。リンパ節に転移しやすく、首にシコリができます。

上咽頭癌の治療

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癌の治療は日進月歩です。自覚症状が出にくく、進行が速い上咽頭癌ですが、決して悲観することはありません。もちろん、早期発見・早期治療がベストです。

[上咽頭癌の診断]

鼻咽腔内視鏡(ファイバースコープ)で、直接癌を観察するとともに、CTやMRIの画像診断で、癌の広がりや浸潤の度合を調べます。

上咽頭癌は遠隔転移しやすいので、肺や骨、肝臓など全身をCTやPETで検査し、転移の有無や進行の程度を調べます。

頸部リンパ節の生検を行うこともあります。

[上咽頭癌の治療]

上咽頭癌は場所的に手術が困難です。治療法は、化学療法と放射線療法の併用が一般的です。ただ、放射線療法も化学療法も、副作用が強いので、多くの患者さんが治療を継続する困難さを痛感しています。中には、途中で治療を拒否する患者さんもいます。

また、癌の発生場所が脳に近いので、後遺症が出ることが多いようです。

①放射線療法

放射線療法とは、高エネルギーのX線を顎の外側から上咽頭癌の発生している部分に照射することです。放射線により、癌細胞を破壊するのです。

副作用としては、放射線照射による火傷の痛み、食欲不振、味覚障害、口の乾きなどです。放射線照射による火傷の痛みは、治療を続けるとともに増大します。最近は、ピンポイントで照射する技術も進み、痛みもかなり緩和されましたが、なかなか辛い治療です。

②化学療法

化学療法とは、抗癌剤治療のことです。抗癌剤を薬剤や点滴で投与して、癌細胞を小さくします。放射線療法と併用することで、治療効果が高くなります。

化学療法は副作用が大きく、放射線療法との併用で、辛さが倍加します。脱毛・吐き気・食欲不振・手足がしびれる・口内炎・白血球の減少による免疫力低下などの副作用があります。

脱毛は女性にとってショックが大きく、また、吐き気は耐え難いほど不快です。脱毛はともかく、吐き気や口内炎などは、最近、対症療法が発達してきたので、遠慮なく医師に訴えて、症状を緩和してもらうことをオススメします。

③免疫療法

最近、注目を浴びている癌の治療法です。従来、癌の3大療法と言えば、手術・放射線療法・化学療法でした。免疫療法は、第4の治療法と言われます。

人間は、生まれつき癌と闘う力を持っています。癌細胞を発生させるような異常を起こした遺伝子を修復する力があります。老化したり、修復不可能なほどDNAが損傷した細胞は、自殺するようにプログラムされているので、癌の増殖を防ぐことができます。また、白血球の仲間の1つであるNK細胞という生まれついての殺し屋が血液中にいて、癌のような異常細胞を発見すると、ただちに攻撃し、破壊します。

このような生まれつき持っている「癌と闘う力」を、いろいろな方法で増強してやるのが、免疫療法です。生まれつき持っている力を活用するのですから、副作用はほとんどありません。従来の放射線療法や化学療法と併用することで、さらに治療効果を高めることができます。

[上咽頭癌の予後]

上咽頭癌の予後は、正直に言うと、あまり良好ではありません。上咽頭癌は、極めて再発しやすいのです。また、遠隔転移しやすいので、知らないうちに、肺や肝臓に転移している場合もあります。そのため、全体として5年生存率は40%と言われています。

1度治った場合でも、しばらくは、定期的に医師の診察を受ける必要があります。ただし、早期発見して、STAGEⅠで治療した人の5年生存率は90%です。早期発見・早期治療が何より大事です。

[上咽頭癌の後遺症]

上咽頭癌は脳に近いので、治癒した後も、様々な後遺症があります。滲出性中耳炎や慢性中耳炎が起こりやすくなります。

唾液が出にくくなり、口の中が乾いた状態になります。口が開きにくくなったり、それにともなって、正しく発音できなくなったりします。食物が飲み込みにくくなることがあります。

脳に放射線が当たるので、脳神経が障害されることもあります。視覚障害や顔面麻痺が起こる場合があります。

まとめ

咽頭癌は、どの部位にできても、自覚症状が出にくく、しかも進行が速いので、気がついた時は、STAGEⅢやⅣになっていることがあります。ことに上咽頭癌はリンパ節に転移しやすく、遠隔転移が起きやすいと言われています。

上咽頭癌の自覚症状は、鼻と耳です。「鼻がつまる・鼻血が出たり、鼻汁に血が混ざったりする」とか、「耳がふさがっている・よく聞こえない」などという症状があったら、すぐに耳鼻科の診察を受けることをオススメします。

単なる鼻炎や蓄膿症、ストレス性の難聴などかもしれませんが、用心するに越したことはありません。特に頭痛が続いたり、鼻汁が膿状だったり、首にシコリを感じたりしたら、要注意です。できるだけ早く、耳鼻科に行ってください。

どんな癌でも、早期発見・早期治療が大事です。

でも、発見が遅れたからといって、悲観しないでください。癌の新しい治療法が次々と開発されています。副作用も後遺症も少ない治療法が、続々と登場しています。最後まで諦めないで癌と闘っていれば、必ず道は開けて来ます。医学の進歩は、想像以上に素晴らしいものです。

  
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